約 1,869,163 件
https://w.atwiki.jp/cgwj/pages/490.html
ニー・アニエーティヤ nir.ani'ertija 生年月日 1980年8月21日 出生地 レアディオ共和国 シェルンダル 没年月日 死没地 出身校 ルティーセ学院大学通信科 所属組織・政党 (革新チャショーテ)→レアディオ軍→クワク共産党→ユエスレオネ人民解放戦線→社会的恋愛関係廃絶同盟 立場 恋愛自由主義 渾名 レアディオのヴェルガナ 親族 サイン 配偶者 やあ、ニーだよ。お前らはここで死ね。――テクタニアー計画研究所襲撃作戦にて ニー・アニエーティヤ(nir.ani'ertija)とはラネーメ系(パイグ系)リパラオネ人の軍人、政治活動家、テロリスト。社会的恋愛関係廃絶同盟党首。 目次 人物史レアディオ軍時代 ユエスレオネ革命前 ユエスレオネ革命後 人物史 レアディオ軍時代 やっぱりラネーメ料理は美味しいよね。――ヴェルガナ12号-激怒作戦でラネーメ共和国ラメストでの虐殺を指揮した後の晩餐にて 1980年8月21日、第二次HA戦争の12年前、レアディオ共和国の大都市シェルンダルに生を受ける。ニー家は15世紀に機械式計算機を初めて開発した筆小雪(クア・ニー・レイ)のリパラオネ化分家であり、本家からの支援を受けながら裕福な生活をしていた。 しかし、1992年(12歳)にHA2が発生すると、学徒徴集の対象となり、軍役となった。類まれなる能力により、指揮官から士官になることを打診され、レアディオ陸軍第24師団隷下第122歩兵小隊の隊長になった。 同戦争で行われたヴェルガナ12号-激怒作戦にも参加し、同胞であるはずのラネーメ人を無慈悲に虐殺した。天神大学に立てこもるキャスカ・ファルザー・ユミリアらの対応を命じられ、高度貴重文書館に向けて火炎放射器を使い図書館員と抵抗する教授、学生を殺戮した。 戦後は中学生として静かに過ごしていたが、ふと思い立ってHA2の際、侵攻地で民間人を撃った銃をその親族に郵送しようとして拘束されかけた。「多分寂しそうだから送ってあげるべきだった」と述べたという。 虐殺にかけてはどの部隊よりもニーの部隊が効率よく無慈悲に市民を屠っていたことから「レアディオのヴェルガナ」の渾名を恣にした。 ユエスレオネ革命前 え?いや、私なりの昇進のお祝いだよ?――FQXEで昇進した同期士官に統一戦線司令官の生首を送ったことに関して。 2000年(20歳)、大災厄によりユエスレオネに移動。クワクに在住するも機微を察知し、クワク共産党に加盟。2001年(21歳)、ファールリューディア・クワク革命戦争では、大隊司令として統一戦線に抵抗。統一戦線の前線司令官の殺害など戦果を上げるも一人では大局を動かせず、敗戦という終戦を迎えた。なお、前任の死亡で昇進した同期の士官を祝うために前線司令官の生首を送らせたと言う逸話が残っている。 敗戦後はクワク共産党幹部相当とされなかったため、旧政府から処刑を受けず放任された。 ユエスレオネ革命後 私達は革命派。フェンテショレーは一掃する。――レトラ市街解放作戦において ユエスレオネ革命が起こると、ユエスレオネ人民解放戦線に参加した。当初は過去の功績から士官候補生として内包候補に選ばれるも革命の妹と呼ばれ現代でも慕われる戦線No.2のターフ・ヴィール・ユミリアの隊列に「邪魔だから道を開けろ」と言うなど、素行が不良だったために曹長止まりとなった。
https://w.atwiki.jp/familiar/pages/4492.html
172 名前:メロン名無しさん[sage] 投稿日:2006/08/30(水) 15 06 19 ID ???0 「そ、そうだ、ちょっとティファニアって娘の事で聞きたいことがあるんだけど…」 ルイズは照れ隠しに、昨日聞きたいと思っていた事をサイトに言う。 「あ、ああ、俺もテファの事で話したいことがあったんだ」 サイトもやや照れながら、テファの事を話し始めた。 テファはハーフエルフで、先住の魔法でサイトの命を救ってくれた事など ここ一月程の間に起こった事をサイトは事細かに説明した。 そして、彼女は記憶を消してしまう魔法が使える虚無の担い手である事をサイトは言った。 ルイズは驚いた、自分以外にも担い手が存在しているなんて今まで夢にも思わなかったから当然である。 だが話を聞いていると疑念も沸いてくる、昨日襲ってきた虚無の使い魔のシェフィールドの事だ。 虚無の使い魔なら、主も虚無の担い手である可能性が高い。もしや彼女はティファニアの使い魔ではないのか? 自分が持っている始祖の祈祷書を奪う為に、サイトを餌にして自分をおびき寄せたのではないか? テファがハーフエルフな事も手伝って、ルイズはテファがレコン・キスタ残党の魔道士ではないかと思い始めた。 その事をサイトに話すと、サイトは猛然となってその意見に反論した。 「そりゃ無いって、ルイズを誘き出すだけなら俺を生かしておく必要なんてないだろ、俺の服と墓で十分だ」 「でも…相手はハーフとはいえ、エルフよ。聖地を侵し、私達人間に敵対するそんざ…」 「あのな、エルフだろうがなんだろうが、テファは違うっての、偏見は良くないぜ」 ルイズの言葉を遮って、サイトは言う。 なんだかえらくテファの肩を持つサイトに別の意味での疑念も持ち始めるが 今は虚無の事の方が先決であるので、ルイズは言葉を続ける。 「でも、おかしくない?虚無の担い手がいる村で、その日のうちに虚無の使い魔が現れるなんて 偶然にしても出来すぎてるわ」 「う…そ、それは…そうだけどさ」 押し切られそうになっているサイトにデルフが助け舟を出す。 「俺も違うと思うぜ、あのうぶなハーフエルフの娘っ子にそんな大それた事が出来るとは思えねぇよ。 なんなら、調べてみればいいさ」 「調べるって…どうやって?」 疑問を言うルイズにデルフが言葉を続ける。 「なぁに簡単さ。それじゃ相棒、ハーフエルフの娘っ子を呼んで来てくれ」 デルフに言われ、サイトが厨房でシエスタと一緒に昼食の準備をしていたテファを呼び出した。 「あの…私に何かご用でしょうか」 173 名前:メロン名無しさん[sage] 投稿日:2006/08/30(水) 15 07 38 ID ???0 呼び出されたテファがルイズの厳しい視線と部屋の異様な雰囲気に、ビクビクしながら聞いてくる。 「いやぁ、実はお前さんが悪人じゃないかって、この貴族の娘っ子が疑ってるもんでさ。 それが本当かどうか知りたくて、呼んだんだ」 直球ストレートに言うデルフにサイトとルイズが慌てる。まさかいきなりネタ晴らしするとは思わなかったのである。 「ええっ!!わたし、その、悪人なんかじゃないです…」 突然の疑いに、がくがくぷるぷると震え、涙も浮かべてテファが怯えた声で否定する。 「分かってるって、君は悪人なんかじゃないよ」 泣き出したテファをなだめる為に、サイトがテファの頭を抱きしめ、撫でながら言う。 ルイズはまたもや別の意味でテファへの疑念を持つが 今は虚無の事の方がせ、先決ね。と、やや怒りを含んだ心で呟く。 「それで聞きたいことがあるんだけど、お前さん、使い魔は持っているか?」 デルフがテファに質問する。 「いえ…私は使い魔を持っていません。幼い頃、屋敷を追われて…魔法の知識も殆どなくて…… 使えるのはオルゴールで聞いた魔法だけですから……」 まだ涙の溜まった目で、うつむきながら、悲しげにテファは答える。 「それじゃあ、これで解決だな」とデルフがのんびりとした口調で言う。 「なんでよ、この娘が嘘をついているだけかもしれないじゃない!」 「いいや、解決だよ。この娘っ子にサモンサーヴァントを唱えさせれば、今言った事が嘘か本当か分かるじゃねーか」 ルイズはハッとした。自分がこの前やった手段だ。 もしテファが嘘をついて使い魔のシェフィールドを従えていればサモンサーヴァントは完成しない。 だが、テファの言っている事が本当なら魔法は完成する。確かにすぐに判別できる方法だ。 「なんだかよく分からんが…サモンサーヴァントを使えばテファの疑いは晴れるわけだな」 「まぁ、そういうこった。それじゃ、ハーフエルフの娘っ子、ちょっとサモンサーヴァントを唱えてくれ」 サイトとデルフの言葉に不思議そうにテファが答える。 「あの…サモンサヴァーントって…なんですか?」 テファもさっぱり分かっていないようである。 「そうだったな、魔法の知識が殆どないんだったか。んじゃ、貴族の娘っ子、レクチャーよろしくな」 「な、なんで私がハーフとはいえ、エルフなんかにサモンサーヴァントを教えなくちゃいけないのよ」 174 名前:メロン名無しさん[sage] 投稿日:2006/08/30(水) 15 09 31 ID ???0 「元はといえば、お前さんが疑いをかけたんだろ。だったら教えるのは当然じゃねーか」 デルフに言い返されて、しぶしぶルイズがテファにサモンサーヴァントの意味と手順を教える。 使い魔をサモンサーヴァントで呼び出し、コントラクトサーヴァントのキスで契約を結ぶ。 テファの言うとおりテファが使い魔を呼び出していないのならサモンサーヴァントは完成し、身の潔白が証明される、と。 ルイズの説明にテファがうろたえた声で言う。 「あ、あの…呼び出した相手とキス、しなくちゃ、いけないんですか? その…わたし、き、キスとかは、ちょっと…そ、それに使い魔とか要らないですし」 言いながらテファはサイトの方へ一瞬視線を揺らす。その一瞬の視線に、ますますルイズの別の疑念が膨れ上がる。 なんだかレコン・キスタの残党疑惑とかよりも、こっちの疑惑をサイトに聞きたくなってきたが 言いだしっぺが自分なので、そうもいかない。 「ああ、それなら大丈夫だ。サモンサーヴァントのゲートが出るかどうかだけの実験だからな。 呼び出した相手がゲートをくぐる前にゲートを閉じればいいから、そんな心配は要らないぜ」とデルフが答える。 「そ、そうですか…良かった…」 心底ホッとした様子のテファになんだか怖い声のルイズが言う。 「大体の手順はこんな感じ。それじゃ、やってみましょうか」 「は、はい…それでは唱えます。我が名はティファニア…」 ルイズの雰囲気に少々恐れをなしながらも、テファはサモンサーヴァントの呪文を唱えていく。 「…に従いし、"使い魔"を召喚せよ!」 詠唱が完成し、テファが目の前の空間に杖を振り下ろす。 その瞬間、眩い光があふれ、その眩しさにテファはとっさに目を瞑る。 しばらくしておそるおそる、目を開けてみると目の前に白い鏡の様な扉、ゲートがあらわれていた。 「出た、出ましたよ!ゲートが!」 笑顔で皆に振り向いてティファニアが言ったのだが、何故かルイズもサイトもこちらを見ない。 というか、別の物を驚いた顔で二人は凝視している。 不思議に思い、テファも二人の視線を追うと、サイトの目の前にテファが呼び出したものと同じ白い鏡のゲートがあった。 「あ、あれ?私、詠唱を間違ったんでしょうか…ゲートが2つも…」 再度うろたえた声でテファが言う。 175 名前:メロン名無しさん[sage] 投稿日:2006/08/30(水) 15 10 52 ID ???0 「…とりあえず、ハーフエルフの娘っ子、ゲートを閉じてみてくれ」 デルフがテファに指示を出す。 「は、はい。扉よ、閉じて!」 テファの言葉に目の前にあった白い鏡が消えうせる。同時にサイトの前にあった鏡も消える。 沈黙が部屋を支配する。ありえない事が起こったのだから当然といえば当然である。 当のありえない事を起こしたテファは、事の重大さを理解できていないようで、きょとんとしている。 「な、なんかの間違いね!…も、もう一度やってみましょう!」 まるで自分に言い聞かせるかのように、大きな声でルイズが沈黙を破った。 「だ、だよな、ま、まさか、そんなわけないよなぁ、ハハハ…」 随分と乾いた笑いをあげて誤魔化すサイト。 「そうだな、いくらなんでもありえねぇ…ハーフエルフの娘っ子、今度は慎重に間違えずに呪文を唱えてくれや」 「は、はい。分かりました」 三人の異様な雰囲気にまたもやビビリながらも、テファは言われたとおり慎重に魔法を唱え始める。 慎重に慎重を重ね、一言一句間違いの無い呪文が完成し、テファは再度杖を目の前の空間に振り下ろす。 魔法の完成に光ることが分かっていたので、今度は目を瞑らずに目の前に現れるゲートをテファは見ることが出来た。 が、それと同時にサイトの目の前にもゲートが現れるのをテファは見てしまった。 今度こそ部屋に完全な沈黙が落ちた。それはもうたっぷり数分間ほど。 その沈黙に耐え切れなかったのかテファがゲートを閉じる呪文をかける。 前と同じくテファの目の前のゲートが消え、サイトの目の前のゲートも同時に消え去る。 「あ、あの、これって、もしかして…」テファが小さな声で、おそるおそる三人に尋ねる。 テファにも何となく分かったのだ、自分の使い魔候補が誰なのかが。 「ねぇ…どういうこと?」 怒気を多分に含んだルイズがデルフに訪ねる。 もはやレコン・キスタとかシェフィールドとか、そんな疑いなんかどうでもいい感じである。 「そりゃあ、まぁ、見たとおりだな。ハーフエルフの娘っ子は使い魔を持っていなくて 使い魔の候補が相棒だってことだな」 「んなっ?!そんな事あるのかよ!俺はルイズの使い魔なんだぜっ!」 「そうよ!契約されている使い魔が重複するなんて話、聞いたこと無いわっ!」 デルフの言葉に驚いて、もっともな事をまくしたてる二人だが「しょうがねーだろ、事実は事実なんだしさ」 176 名前:メロン名無しさん[sage] 投稿日:2006/08/30(水) 15 12 10 ID ???0 と、デルフのさらにもっともな言葉が押し潰す。 「まぁ、取りあえずはハーフエルフの娘っ子の疑いは晴れたわけだし、万々歳じゃねーか」 「そ、そうだな、契約云々はまた別の話だからな」 デルフとサイトの言葉に納得は出来ないが、確かに当初の目的を果たしたので、ルイズは文句が言えない。 「そ、そうね、確かに彼女は敵じゃないみたいね…」 まだルイズの厳しい視線が残っているが、自身の疑いが晴れたようなので、テファもホッとした表情を見せた。 「あ、あの、庭の広場に来てください。そろそろ昼食の用意が出来るので」 疑いも晴れて、そう言って昼食の支度に戻ろうとしたテファを、サイトが呼び止める。 「テファ、その、ゴメンな、変な疑いをかけちまって…」 「いえ、わたし、ハーフエルフですから、こういった事には慣れてます。 それに…サ、サイトは最後まで私のことを信じてくれたから」 そう言って、顔から耳まで真っ赤にしてテファはうつむいて、もじもじする。 「そ、そっか…」 サイトもちょっと顔を赤くしてうつむく。 …何、何なのこの雰囲気。ルイズは心の中で呟く。 サイトとテファの甘酸っぱい青春ラブコメの如き雰囲気、しかもこの展開では自分が二人の仲を引き裂く悪役みたいである。 「そ、それじゃ、私は昼食の支度に戻ります」その雰囲気を誤魔化すように言って、テファは部屋を出ようとする。 と、途中で何か思い直したのかテファはサイトの方へ振り向く。 「あ、あの…わたし、使い魔とか、その…要らないですけど、あ、あなたとなら良いかもしれません…」 顔や耳と言わず、肩まで真っ赤になりながらそう言って、テファは逃げるように走り去ってしまった。 「なっ!なんですとっ!!」 突然のテファの告白にも近い言葉にサイトは声をあげる。 「ほぉ、もてるじゃねーか、相棒」そう言ってデルフはサイトをからかう。 「な、そ、そんなんじゃ、ねーよ」デルフにからかわれて顔を赤くしてサイトは反論する。 「ふーん」 呟きが一つ。 一言だがえらくどす黒いオーラを含んだ呟きが部屋中に響き渡る。 さっきまで赤かったサイトの顔が、一瞬で青くなる。 177 名前:メロン名無しさん[sage] 投稿日:2006/08/30(水) 15 13 25 ID ???0 「ま、待て、まって、ルイズ、その、ち、違うんだ!」 どす黒いオーラを何とか消そうと、サイトがその一言を言った本人を落ち着けようとする 「何?なにが違うの?ねぇ…犬」 犬、懐かしの犬が来た。もはや死は目前である。 「お、俺はテファをそんな目で見てねーよ。テファとはただの友達として…命の恩人として…」 どうあがいても結果が変わりそうは無いのだが、サイトは必死の言い訳をする。 「一ヶ月だものね…一ヶ月も首輪が外れた犬がどうなるか…そうよね、つい、犬も羽目も外したくなるわよね…」 そう殺気を込めて言いながら、ルイズはサイトに近寄る。 「おおお、落ち着こうルイズ、お、俺は何もしてない。本当だ」 言っている本人が一番落ち着いてないように見えるが、例によって例の如く、ルイズはそんなサイトの股間を蹴り上げる。 「…こんな事もあろうかと、用意しておいたの」 言いながらルイズは魔法の拘束具を、切ない所を蹴り上げられて崩れ落ちたサイトに取り付ける。 「こ、こんな事って、どんな事を想定…」 「ヴァスラ」 サイトの反論を無視してルイズは電撃を放つ。ぎゃっ!とサイトは叫んでごろごろ転がる。 「久々に再調教しなくちゃいけないみたいね、それもたっぷりと…」 ルイズの言葉にあきらめがついたサイトは、ああ…今日の昼食は遅くなりそうだ、と心の中で呟いたのであった。 178 名前:メロン名無しさん[sage] 投稿日:2006/08/30(水) 15 14 38 ID ???0 「すみませんっ、遅くなりました」 タタタっと走りながら、庭の広場で子供達と食器を並べているシエスタにテファは謝る。 「いえ、子供たちも手伝ってくれましたし、あとは食器を配るだけですから」 そう言ってシエスタは微笑む。 もう広場のテーブルには料理もあらかた並び、子供達やアニエスも席についている。 「それじゃ私もお手伝いします」そう言ってテファも食器を並べようとする。 テファが食器を手に取ったその時、テファの家から轟くような悲鳴が聞こえた。 「っ!敵かっ!」 アニエスがそう言い、テーブルに立てかけておいた剣を手に取る。 昨日の今日だ、昨夜の敵が襲来してきてもおかしくない。アニエスは剣を抜き、家に入ろうとする。 「あ、待ってください。多分、敵じゃないです」 と、のんびりとした口調でシエスタがアニエスを引き止める。 「何っ!違う…のか?」 あまりに間延びしたシエスタの引止めに、アニエスは緊張が緩み、質問する。 「はい、学園とかで、たまに聞く悲鳴なんです。その…サイトさん曰く、運命なんだそうです」 「運命…?」 なんだか訳の分からない理由にアニエスは首を傾げる。 何度も響く悲鳴をよくよく聞いてみると、声の主はその運命のサイト自身のようである。 「つまり…放っておいて良いのか、アレは」 「はい、そうらしいです」 アニエスの質問に簡潔に答えるシエスタ。どうやら結構な頻度である現象らしい。 「そうか…」そう言って再び剣をテーブルに立てかけ、アニエスは席につきなおす。 「え、あの、良いんですか?本当に…」 悲鳴が響くたびに首をすくめ、オロオロとするテファがシエスタに聞くも 「大丈夫です。あ、でも、ミス・ヴァリエールとサイトさんのシチューは、温めなおさないといけないかもしれませんね」 と朗らかに答える。 「それじゃ、ミス・ヴァリエールとサイトさんは遅くなりそうですから、私達は先にいただきましょう」 そう言って食器を配り終えたシエスタが席に付く。 「は、はぁ、そうですか…」 179 名前:メロン名無しさん[sage] 投稿日:2006/08/30(水) 15 15 54 ID ???0 ここまで言われたのではどうにもならない、テファは悲鳴を気にしながらも席に付く。 子供たちも不安な顔をしながら席に付き「それではいただきます」と簡潔な祈りと作法を行ない食べ始める。 ぽかぽかと日和の良い中での昼食、時折吹く風は心地よく、気分が軽くなる。 シエスタは「平和ですね…。戦争も終わって、皆と楽しく食事が出来て、こんな毎日が続けば良いなぁ」と言い、微笑む。 言っている事はもっともなので、アニエスも「そうだな」と簡単ながらも同意する。 テファと子供たちもシエスタの言葉に賛同したいのだが、それを打ち消すほどの悲鳴が響く中ではそれも適わない。 こんな中で平然と食事を取って、和やかに話すシエスタとアニエスに一種の恐れを感じたテファは 外の世界って、私が考えているのとちょっと違うかも…と 世界を見てみたいという憧れと意気込みがちょっぴり挫かれてしまったのであった。
https://w.atwiki.jp/pachikaisekidata/pages/532.html
リール配列 ドキッと!ビキニパイ2TOPに戻る
https://w.atwiki.jp/sumaburamousougame/pages/402.html
作る? 初版と最新版 初版:2013/02/21 (木) 19 56 08 最新版:2015/03/20 Fri 18 18 03 アイテム名:ザコキャラボール 分類:召喚 使い方 投げた後、中からザコ敵が出てくる。 関連 なんでも新アイテム投票 アイテムリスト アイテムテンプレ コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/summonmate/pages/412.html
+ アシュラボーン アシュラボーン 情報 属性 闇1 入手方法 モンスター吸収 サイズ 1 成長速度 タイプC 系統 ゾンビ系人型剣系 覚える魔法 習得Lv 魔法名 消費MP 3 暗黒斬り 5 成長率(小数点第2位まで) Lv MHP MMP ATK DEF AGL MGC SPR 1~21 2.40 1.90 2.40 2.20 2.05 1.80 2.00 ステータス Lv MHP MMP ATK DEF AGL MGC SPR アシュラボーン+ゾンビハンター= Oの騎士 -- あーぺく (2011-01-29 11 24 12) Oに入る言葉なんだっけ? -- 名無しさん (2011-01-29 11 24 33) 屁(へ)とはちょっとちがいますね。 -- ウィングドラゴン (2011-01-29 11 56 12) おそらく屍(しかばね)だとおもいます -- ロード (2011-01-29 12 02 09) ↑ありがとうございます。 -- 名無しさん (2011-01-29 12 32 13) 成長値295は強い。聖なるマント装備可能のため対人戦でも(ry -- マック (2011-01-29 13 07 23) 強し すごい -- 剣舞 (2011-07-28 16 37 30) アシュラボーンって何に何を吸収させたらいいんですか? -- タバサ (2013-10-01 18 59 31) ボーンデッド? -- 名無しさん (2018-04-09 11 48 20) アシュラボーンはスカルリーダー(冥界ダンジョン)+スケルトン(女神の城前の不思議な森) -- サモンメイトマスター (2018-05-06 11 37 16) キングアスラと違ってゾンビ系なのでそこもいいです -- 名無しさん (2018-08-30 16 20 54) 剣、装備可能です おそらく剣系だと思います フルメタルに吸収させたところソードメタルになります どなたか編集お願いします -- まいめいど (2019-08-01 12 39 21) ↑ 反映しました。情報ありがとうございます。 -- ユウイチ (2019-08-01 12 56 37) 作成が用意でサイズ1物理アタッカーとして能力値は悪くなく装備も充実しているので、適当に育成してもそこそこ強くて使える。スカルリーダーの入手が終盤なのでストーリーでの活躍は少ないが、転生周回の雑魚刈り要因や、2,3対作って虚無B6星3周回に使うなど、クリア後に光る性能を持っている。 -- あーぺく (2023-11-24 00 58 32) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1890.html
第三十一話 『湖畔ダイバー』 ロンディニウムの城の一角にある鍛錬のための場所。そこに一人の男がいた。剣に酷似した杖を構えている。 ヒュッ、という風を切る音とともに鋭い突きが放たれる。最初は一突き一突き丁寧に、そして今は――― 「シッ!」 目にも留まらぬ高速の剣技となっている。しかし丁寧さが損なわれるわけではなく、より正確に、それでも流れるように、だ。その様はまるで――― 「まるで『閃光』だな子爵」 その声にワルドは手を止めて正面を向く。鍛錬のために裸になった上半身に汗が浮いている。 「これは閣下、お見苦しい恰好で申し訳ございません」 「いや、気にする必要などないよ子爵。君がそうして鍛練を積み力をつけることは、ひいては余の力となるのだからな」 相変わらずの笑いを浮かべるクロムウェルの傍らにはシェフィールドが控えていた。貴族として染みついた思考で、さすがに女性の前で裸は失礼かと思い、地面に置いたタオルを拾って体をさっと拭き服を身につけていく。当然、銀のロケットも。 「しかし、閣下には申し開きのしようもありませぬ。閣下より賜った竜騎士隊、それらを全て失うだけではなく先発隊までも守りきれず失う羽目になってしまったのは、ひとえにこのわたくしの力のなさであります・・・」 膝を突き深々と頭を垂れるワルドにクロムウェルは責めるでもなく言う。 「なに、君の失敗が原因ではないだろう」 頭を垂れているワルドは判断に困っていた。アルビオンの力の象徴でもある『レキシントン』号を筆頭とした強大な艦隊。圧倒的な数的有利。だが結果は大敗。 『勝利はこれ疑いなし』というクロムウェルの言葉通り、自軍でこの結末を予期できた者はだれもいないだろう。現に今アルビオン軍の中には動揺が縦横無尽に駆けめぐっているのだ。 だが、クロムウェルには動揺が一切見られない。本当の大物なのか、ただ単に現状が理解できぬド低脳なのか・・・・・・ その時、首から垂れ下がるロケットがワルドの目に入った。 そうだ。たとえ目の前の男が始祖だろうが神だろうが自分には関係ない。泥船だろうと構わない。途中で沈むのなら沈め。ならば俺は泳いでいくまでだ。 歴代の英雄達は皆こう言っている。『信奉すべきは神でも金でもない。最後にお前を救うのはお前の剛力唯一つ』だと。あくまで貴様は道先案内人だ、『閣下』。不案内だとわかればその瞬間に貴様の役目は終わるのだ。 『ガンダールヴ』を翻弄した事実が、ワルドの体に自信を漲らせている。ロケットの表面をなぞると、その冷たい感触が興奮する自らをなだめているように感じた。 「そう、失敗の原因は他にあるのだよ」 クロムウェルが片手を上げると、傍らのシェフィールドが報告書らしき巻物を要約して読み上げた。 「なにやら空にあらわれた光の球が膨れ上がり、我が艦隊を吹き飛ばしたとか」 「つまり、敵に未知の魔法を使われたのだ。これは計算違いだ。誰の責任でもない。しいてあげるなら・・・・・・、敵の戦力分析を怠った我ら指導部の問題だ。一兵士のきみたちの責任を問うつもりはない。是非とも鍛錬に励んでくれたまえ、子爵」 クロムウェルはワルドに手を差し出した。ワルドはそこに口をつける。 「閣下の慈悲のお心に感謝します」 上辺を取り繕いながらワルドは桃色の髪を思い出していた。思えば、あの飛行機械にはルイズも乗っていた。ならばあの魔法は、あの光は恐らく『虚無』だ。仔細は解らないがまず間違いないだろう。 そして、その使用者がルイズだとすればどうだろうか。ワルドの見込んだとおり、ルイズは素晴らしい才能を秘めていたのだ。 しかし、それではクロムウェルの『虚無』とはあまりにかけ離れすぎている。生命を操ったクロムウェルに対して、ルイズは謎の光だ。どちらも、個人が操るにはいささか強大すぎるとも思えるが・・・・・・ 「あの光に関して、余は一つの可能性を考えておる。恐らくは『虚無』ではないかというな・・・。あまり考えたくない事実だが、あれほどの魔力、スクウェアクラスでさえ持ち合わせているかどうか」 最後の部分は自分への皮肉かとワルドは眉をひそめた。 「もっとも、余とて『虚無』の全てを理解しているとは言い切れぬ。『虚無』には謎が多すぎるのだ」 シェフィールドがあとを引き取る。 「長い、歴史の闇の彼方に包まれておりますゆえ」 「歴史。そう、余は歴史に深い興味を抱いておる。たまに書を紐解くのだ。始祖の盾、と呼ばれた聖者エイジスの伝記の一章に、次のような言葉がある。数少ない『虚無』に冠する記述だ」 クロムウェルは詩を吟ずるような口調で、もったいぶって次の言葉を口にした。 「"始祖は太陽を作り出し、あまねく地を照らした"」 『ガンダールヴ』や『虚無』についてならば、ワルドとて歴史を調べているのだ。よっぽど知っていると言ってやろうかと思ったが、何とか抑えて相づちを打った。 「・・・なるほど、あの光は小型の太陽ともいえなくもない」 「謎が謎のままでは、気分が悪い。目覚めも悪い。そうだな、子爵」 「おっしゃるとおりです」 「トリステイン軍は、アンリエッタが率いていたと言うではないか。ただの世間知らずのママッ子かと思っていたが、どうしてどうして、やるではないか。あの姫君は『始祖の祈祷書』を用い王室に眠る秘密をかぎ当てたのかもしれぬ」 「王家に眠りし秘密とは?」 「アルビオン王家、トリステイン王家、そしてガリア王家・・・・・・、もとは一本の矢だ。そして、それぞれに始祖の秘密は分けられた。そうだな?ミス・シェフィールド」 「閣下のおっしゃるとおりですわ。アルビオン王家の秘宝は『風のルビー』ともう一つ・・・・・・。しかしいずこに消えたのか、風のルビーは見つからず、もう一つは未だ調査が済んでおりません」 ワルドは地味な感じのするその女性を見つめた。深いローブで顔を隠しているために表情が窺えない。働きぶりを見ればクロムウェルの秘書にも見えるが・・・、どうしてなかなか、ただの秘書ではなさそうだった。 強い魔力は感じない。しかし、クロムウェルにここまで重用されるからには何か特殊な能力があるのだろう。 「いまやアンリエッタは『聖女』、ウェールズは『勇者』として崇められ、アンリエッタに至っては女王に即位するとか」 「敵の士気は昂揚し、外の敵に対してはどこまでも強気で攻められるでしょう」 なんとも含みのある言い方だ。ワルドはシェフィールドに注意を向けるようにした。 「真に失礼ながら、今の我が軍にトリステインを再び攻める力はありません。力を蓄えなければなりませんが、かといってその間攻め手を緩めては敵もまた身を休めてしまうでしょう。ですから、今度はトリステインの中から攻めるのです」 「理想的ではありますな。しかしながら、当てはあるので?」 「以前よりトリステインの中枢に位置する人物とコンタクトをとり続けておりますわ。すでに彼者は我らの同士」 「手の早いことだ。それで、そのものに何をさせるつもりだ」 「新型の銃と、流れのヒットマンを紹介して差し上げましたわ。そのヒットマンは世を儚んでおり、命を惜しまない人物でしたので・・・」 それは恐らく凱旋パレードでの暗殺未遂事件のことだろう。ワルドにも情報は入ってきていたが、この女が一枚噛んでいるとは思わなかった。 「しかしながらミス。その者を使った作戦はすでに失敗に終わっていると聞き及んでいるが?」 「それはあくまで敵の目を中に向けさせるためのものですわ、子爵。自分の体の中に病気があると知れば、人は不安になりますでしょう?本命ならばかねてよりトリステインに忍ばせておりますわ。そう、この『白の国』アルビオンを破滅へと導いた悪魔―――」 そこで、シェフィールドの口元が妖しく歪んで見えた。 「『白の粉』がトリステインを覆い尽くすでしょう・・・」 「うむうむ!そう言うわけだ子爵。トリステインは病魔に冒された患者も同然。我々は力を蓄え、その間トリステインには存分に弱って貰おうではないか」 はっはっは、と笑いながらクロムウェルたちは城に消えていった。しかしワルドは鍛錬を再会する気にはなれなかった。先ほどのシェフィールドの妖しげな笑みが脳裏にこびりついて離れないのだ。 あの笑みはただ妖艶なだけではない。あれは裏切り者の笑みだ。そう、自分と同じ。クロムウェル以外に信じ崇拝しているものがある奴の笑みだ。 「クッ・・・面白くなってきたな」 思わず口元が歪んだ。だが奴が誰であろうと、何に仕えていようと関係ない。自分と母の邪魔さえしなければ興味の欠片も沸きはしない。 「しかし、クロムウェルも暢気なものだな、どうも。トリステインは体内に病気を持った患者と言っていたが・・・・・・貴様の腹の中には爆弾が二つはあるというのに・・・」 杖を振るうと旋風が起き、地面に置かれた帽子が巻き上がった。それを掴んで頭に乗せる。 「死が友人だというのならば、この俺が一生遊んで暮らせるようにしてやろう。クロムウェルも、『ガンダールヴ』もな」 「っくしょい!」 「なんだ、風邪かいウェザー?」 「なに!なら私が暖めて・・・」 「いや、大丈夫ですから結構です」 ウェザーはアニエスの申し出をキッパリと断った。そもそも本当に風邪ではないのだ。大方、誰ぞが噂でもしているのだろう。 「だが、四十度の熱出してても見にくる価値があるぜ。この光景はよォ」 今一同が立っている丘から見下ろすラグドリアン湖は青く眩しく、陽光を受けて湖面がガラスの粉を塗したように瞬いているのだ。波打ち際まで下りてみると、水中が透き通って見える。話では、夜中でも月光に照らされて水中が透けて見えるとか。 「ヘンね」 その湖面を見つめながらモンモランシーが小首を傾げた。 「うした?」 「水位が上がってるわ。昔、ラグドリアン湖の岸辺は、ずっと向こうだったはずよ」 「ホントか?」 「ええ。ほら見て。あそこに屋根が出てる。村が飲まれてしまったみたいね」 モンモランシーの指差す先に、藁葺きの屋根が見えた。一同はそこで、澄んだ水面の下に黒々と家が沈んでいることに気付いた。モンモランシーは波打ち際に腰を下ろすと、水に指をかざして目を瞑った。 そしてしばらくの後に立ち上がると、困ったような顔をした。 「水の精霊はどうやら怒っているようね」 「それでわかるのか?」 「舐めないでよね。わたしは『水』の使い手、香水のモンモランシーよ。このラグドリアン湖に住む水の精霊とトリステイン王家は旧い盟約で結ばれているの。その際の交渉役を、『水』のモンモランシ家は何代もつとめてきたわ」 今は色々あって他の貴族が務めているけどね、と付け加えた。 「その水の精霊に会ったことはあるのか?」 「小さい頃に一度だけ。領地の干拓を行うときに水の精霊の協力を仰いだのよ。大きなガラスの容器を用意して、その中にはいってもらって領地まで来てもらったわ。 水の精霊はプライドが高いから、機嫌を損ねたら大変なのよ。実際機嫌を損ねて、実家の干拓は失敗したわ。父上ってば、水の精霊に向かって『歩くな。床が濡れる』なんて言ったもんだから・・・・・・」 「水の精霊ね・・・どんな形なんだ?」 精霊というと、どうしても『あのピノキオ』を思い出してしまうために何だかいい印象が持てないウェザーだった。 「そう言えばわたしも話しに聞いただけで知らないわね」 「ぼくもだ」 「私も」 ルイズたちも気になるようだった。『水』のイメージとして綺麗な感じはするが、どうなのだろうか、と。 「ものすごーく、綺麗だったわ。そう、美しい!スゴイ美しいのッ!百万倍も美しい・・・・・・」 恍惚とするモンモランシー。その時、木陰から老農夫が一人、一行の元へとやってきた。 「もし、旦那様。貴族の旦那様」 「どうしたの?」 モンモランシーが尋ねると、農夫は拝むように手を組んだ。 「旦那様がたは、水の精霊との交渉に参られた方々で?でしたら助かった!はやいとこ、この水を何とかして欲しいもんで」 一行は顔を見合わせた。どうやらこの農夫は湖に沈んでしまった村の住人らしい。 「わたしたちは、ただ、その・・・・・・湖を見に来ただけよ」 まさか水の精霊の涙を取りに来た、ということもできず、モンモランシーは当たり障りのないセリフを口にした。 「さようですか・・・・・・。まったく、領主様も女王様も、今はアルビオンとの戦争にかかりっきりで、こんな辺境の村など相手にもしてくれませんわい。畑を取られたわしらが、どんなに苦しいのか想像もつかんのでしょうな・・・・・・」 はぁ、と農夫は深いため息を漏らした。 「いったいラグドリアン湖になにがあったの?」 「増水が始まったのは、二年ほど前でさ。ゆっくりと水は増え、まずは船着き場が沈み、寺院が沈み、畑が沈み・・・・・・。ごらんなせぇ。今ではわしの屋敷まで沈んじまった。 この辺りの領主様はご領地の経営などより、宮廷でのお付き合いに夢中でわしらの頼みなど聞かずじまい」 よよよ、と農夫は泣き崩れた。 「長年住み慣れた土地が無くなっちまったのもありますが、このままじゃわしら村民は全滅してしまいます・・・・・・」 かすれそうな声で絞り出した農夫に、アニエスが進み出て助け起こした。 「ご老人、私は見ての通り騎士だ。この村の現状を女王陛下にお伝えしてみよう」 アニエスの言葉に老人はハッと目を見開き、再び泣き崩れてしまった。 「ありがとうごぜぇます・・・ありがとうごぜぇます・・・」 その様子を見ていた一行は、感心したように眺めていた。 「ふうん・・・惚れ薬を飲んでいても、困った人は捨て置けないって騎士道精神は忘れないのか?」 「え?う~ん、どうかしら・・・基本は惚れてしまった者を第一優先に行動するハズなんだけど・・・」 ウェザーに話を振られたモンモランシーは考え込むように腕を組んだ。 「鋼の精神力ってやつじゃないかな」 「ギーシュあなたってそういうの好きそうだものね」 ルイズのからかいにギーシュは頭をかいた。 農夫が愚痴を言いたいだけ言って去ったあと、モンモランシーは腰に下げた袋からなにかを取り出した。それは一匹の小さなカエルであった。鮮やかな黄色に、黒い斑点がいくつも散っている。 カエルはモンモランシーの手のひらの上にちょこんとのっかって、忠実な下僕のようにまっすぐにモンモランシーを見つめた。 「カエルッ!」 カエル嫌いなルイズが悲鳴をあげてウェザーの背に隠れた。しがみつきながら毛を逆立てて威嚇する様はまるで猫である。 「自己主張の激しいカエルだな・・・・・・ド派手で毒々しい。ヤドクガエルか?」 「毒々しいなんて言わないで!わたしの大事な使い魔なんだから!」 どうやらその小さなカエルがモンモランシーの使い魔らしい。モンモランシーは指を立てて使い魔に命令した。 「いいことロビン?あなたたちの古いお友達と、連絡が取りたいの」 モンモランシーはポケットから針を取り出すと、それで指の先をついた。赤い血の玉が膨れ上がる。その血をカエルに一滴垂らした。 それからすぐに、モンモランシーは魔法を唱え、指先の治療をする。ぺろっと舐めると、再びカエルに顔を近づける。 「これで相手はわたしのことがわかるわ。もっとも、覚えていればの話しだけれど。じゃあお願いね、ロビン。水の精霊に盟約の持ち主の一人が話をしに来たと伝えてちょうだい」 ロビンはそれに頷くと、ぴょんと跳ねて水中に消えていった。 「さ、あとは待つだけよ」 「そんなもんなのか。じゃ、さっきの百万倍も美しい水の精霊についての続きを聞かせてくれよ」 「そうねえ・・・まず、水の精霊は人間なんかより遙かに長く生きている存在なのよ。始祖ブリミルが光臨した六千年前よりも昔から、ね。 その体に既存の形は無いわ・・・自在に姿形を変え・・・・・・そう、まるで水ね。そしてその体は陽光を受けてキラキラと七色に・・・・・・」 そこまでモンモランシーが口にした瞬間、離れた水面が光り出した。 「おでましね。百聞は一見に如かず。見た方が早いわ」 岸辺より三十メイルほど離れた湖面の下が眩く光り、まるでそれ自体が意思を持っているかのように水面が蠢いた。それから餅が膨らむようにして、水面が盛り上がり、まるで見えない手にこねられているようにして、盛り上がった水が様々に形を変える。 湖からロビンが這い上がり、跳ねながら主人のもとに帰ってきた。そのロビンの頭を撫でたモンモランシーは、水の精霊に向けて両手を広げ、口を開いた。 「わたしはモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で、旧き盟約の一員の家系よ。カエルにつけた血に覚えはおありかしら。覚えていたらわたしたちにわかるやりかたと言葉で返事をして頂戴」 すると、ぐもぐもと蠢いていた水の精霊が、モンモランシーそっくりの形をつくり、微笑んだのだ。ただ、そのサイズは一回りほど大きいのだが。 なるほど、確かに美しい。宝石が塊となって動いて見えるのだ。 しばし様々な表情を作り出していた水の精霊だったが、それから無表情になりモンモランシーの問いに答えた。 「覚えている。単なる者よ。貴様の体を流れる液体を、我は覚えている。貴様に最後に会ってから、月が五十二回交差した」 「そう、よかった。水の精霊よ、お願いがあるの。厚かましいとは思うけど、あなたの一部をわけて欲しいの」 一部という単語に一同は怪訝な顔をして見せたが、モンモランシーはそれらを無視して前を向いたままだ。そして、しばらくしないで水の精霊がにこりと笑みを見せた。 「やった!OKみたいだ!」 しかし、ギーシュの喜びも虚しく、向こうから出てきたセリフは真逆のものであった。 「断る。単なる者よ」 「そりゃあそうよね。残念でしたー。さ、帰ろ」 あっさりとモンモランシーは背を向けたが、すぐに踵を返して水の精霊に向き直った。 「ってな具合にいけたら楽なんだけど、今回ばかりはそうもいかないのよね。わたしが捕まっちゃうってのもあるけど、それ以上にわたしのせいで他人様に迷惑かけてるかと思うと、寝覚めが悪くてしようがないわ!」 少し語調を強めて言ってみるが水の精霊は無反応だ。腰に手を当てて指まで立てているモンモランシーにまったく反応を示さない。 気まずい沈黙の中、ウェザーが口を開いた。 「盟約とか、一部とかよくわからんが・・・・・・タダで貰おうとするのがいけないんじゃないのか?」 「う~~ん・・・・・・ねえ、水の精霊。あなたがあなたの一部をくれると言うのなら、わたしたちもあなたのために何でもするわ」 すると再び水の精霊は蠢き、ふるふると震えたかと思うとピタリと止まり、 「よかろう」 と言った。 「世の理を知らぬ単なる者よ。貴様は何でもすると申したな?」 「ああ、言った」 う、と尻込みするモンモランシーに代わってウェザーが答えた。 「ならば、我に仇なす貴様らの同胞を、退治してみせよ」 一行は顔を見合わせた。 「退治?」 「さよう。我は今、水を増やすことに精一杯で襲撃者の対処にまで手が回らぬ。よって、その者どもの退治ができれば、望み通り我の一部を進呈しよう」 「ああ、やっぱり厄介事だわ・・・・・・」 「豚箱にはいるのとどっちが厄介かなんてことは・・・・・・」 「言われなくてもわかってるわよッ!もう!こうなったらトコトンやってやるわよ!」 こうして、ウェザーたちは水の精霊を襲う連中の退治をする羽目になったのだった。 襲撃者たちは夜になると、魔法を使い水中に侵入し、遙か湖底の奥深くにいる水の精霊を襲うというのだ。一行は水の精霊が示したガリア側の岸辺の木陰に隠れ、作戦を立てていた。 「水中か・・・・・・」 「たぶん風の使い手ね。空気の球をつくって、その中に入って湖底を歩くんじゃないかしら。水の使い手なら水中でも呼吸が出来るけど、水の精霊相手に水を使うなんてのは自殺行為だわ。だから、風ね。空気を操り、水に触れずにやってくるに違いないわ」 「でも、水の精霊って傷つけられるのかしら?水に手を突っ込んでも水は痛がらないと思うんだけど・・・・・・」 ルイズの疑問はもっともだった。規格の違うものを相手にするときは未知だらけなのだ。 「水の精霊は動きが鈍いし・・・・・・それにメイジならただの水と精霊の見分けはつくわ。水の精霊は魔力を帯びてるからね。近づいて、強力な炎で体を炙る。徐々に蒸発して・・・・・・、気体になったらさすがにもとの液体として繋がることは出来なくなっちゃうわ」 「繋がる・・・?」 「水の精霊は、まるでコケのような存在なのよ。千切れても繋がってても、その意思は一つ。個にして全。全にして個。わたしたちとは全く違う存在なのよ」 「ふーん・・・」 「そして相手が水に触れていなければ、水の精霊の攻撃は相手に届かない」 「偉そうな割りには制限の多い奴なんだな」 「まったく・・・・・・。水の精霊の怖さをちっとも知らないのね。いい?少しでも精神の集中が乱れて、空気の球が破れ、一瞬でも水に触れたら心を奪われるのよ。他の生物の生命と精神を操る事なんて、あの水の精霊には呼吸と大差ないわ。 それと、水の精霊にとっては襲撃者とわたしたちの区別なんてついてないと思うから、水に落ちたらお終いね」 「なかなか肝の据わった奴らみたいだな。それじゃあ水に入られる前に勝負をつけるしかないか。こっちはまあ、そこそこの数だが・・・」 「あ、そのことなんだけど」 モンモランシーが挙手した。 「わたしは戦いの方は無理だから、戦力には数えないでね」 その代わり後方で回復の援護ができるわ、とフォローした。 「となると、モンモランシーを抜いた四人か・・・・・・、アニエスお前戦えるか?」 くっつきそうなくらい近い隣でアニエスはずっとウェザーを見ていたのだが、話を振られて視線が合ってもそらすことはなかった。 「ウェザーが必要だと言うのなら、水の精霊とでさえ戦って見せよう」 「バカ、そいつを守るのが俺達の役目だぞ」 ウェザーは手頃な枝と石を数個手元に集める。それから空を見て、湖を見た。と、ギーシュが少し不安そうに尋ねてきた。 「大丈夫かな、ウェザー。もし敵が大人数だとしたら・・・・・・」 「心配するな。当方に迎撃の用意ありってな」 そう言って枝で地面に円を描いた。どうやら湖のようらしい。 「これから言う作戦はお前の魔法が火蓋を切るんだ。最初でこけたら全部こける・・・・・・いけるな?」 「・・・・・・ああ」 ギーシュは目に力を込めて返した。それに満足そうに頷いて、ウェザーは描いた湖の周りに石を置き始めた。 「まずはギーシュが・・・・・・」 作戦会議も終え、あとは見張りを交代で行いながら夜を待つのみとなった。時刻はまもなく夕方に入る頃だろう。 現在の見張りはアニエス。一緒にいてくれとぐずられたが、作戦のために休養は必要だと言うと、職業柄理屈に納得できてしまったのか名残惜しそうに離れていった。 見張りの順番を上手いこといじり、少しの間とはいえ自由を手に入れたウェザーはしばし近くをぶらついたあと、湖畔の林の木に背を預けて座るルイズを見つけて歩み寄った。 「はあああああ~~~~、ため息出るなあ。こういう湖って・・・・・・。ほっとする・・・美しい・・・こーゆー湖のある湖畔に家を持って日向ぼっこしながら子供時代のこと思い出してノスタルジイにひたりてえなあ~~~」 「・・・・・・ぷっ、なーにジジ臭いこと言ってんのよ」 何やら近寄りがたい雰囲気を出して祈祷書を開いていたルイズだったが、ウェザーのセリフに思わず吹きだしてしまった。木にもたれてウェザーはルイズにリンゴを差し出した。 「そろそろ腹がへる頃だと思ってな、みんなの分も買ってきたんだ」 「へえ、気が利くわね」 ルイズが受け取るのを見ると、ウェザーはもう片方に持った真っ赤なリンゴに豪快にかじりついた。それを見てルイズもマネしてかじりつくが、ルイズの小さな口ではかみ切れずに歯形だけが残ってしまう。 「ガハハハ、へたっぴだなあ。無理せずにチビチビ食えばいいじゃねえか」 「う、うるさいわねえ、言われなくたってそうするわよ!」 頬を赤く染めて浅くかじりつくルイズ。その様子を笑ってみていたウェザーだったが、軽い調子でルイズに尋ねた。 「なんか今日は元気がないが・・・・・・どうかしたのか?」 その言葉に、ルイズは口に運んでいたリンゴを下ろした。手元のそれをしばらく眺めていたが、ゆっくり訥々と話し始めた。 「実はね、『虚無』のことなんだけど・・・・・・がっかりさせたくなくて、姫さまにも言えなかったことなんだけどね・・・・・・」 本当はウェザーとアニエスのことが気になりすぎてだなんて口が裂けても言えないルイズだが、しかしそのもったいぶった言い方にウェザーは先を促す。 「なんだよ。言やいいじゃねーか」 「実は・・・・・・・・・『虚無』の魔法、『エクスプロージョン』があれ以来唱えられなくなっちゃったのよ・・・」 驚愕の事実にウェザーは目を見開いた。 「それはもう『虚無』が使えないってことか・・・・・・?」 「そういうわけじゃないみたい。唱えられないって言うのは、最後までって事なの。練習していたときも、何度唱えようとしても途中で気絶しちゃうのよ。一応爆発はするんだけど」 「気絶?どういうことだ」 「たぶん・・・精神力が足りないんだと思うの」 「精神力ゥ?」 「そ。魔法は精神力を消費して唱えていることは知ってるわよね?」 ウェザーは頷いた。それは初期の授業で聞いていることだった。そして精神力を使い、どれだけの系統を足せるかでクラスが決まるということも。 「で、精神力が最後まで持たずに切れちゃったのに無理して唱えようとすると気絶しちゃうわけ。伝説の『虚無』の系統だもの。強力すぎてわたしの精神力が足りないんだわ」 「でも、この前は唱えられた」 「そこなのよね・・・・・・どうしてかしら・・・・・・」 ドットがスクウェアクラスの呪文を唱えられないように、精神力の絶対量に上限がある以上はルイズも『虚無』の詠唱が不可能なはずなのだ。だが、事実ルイズは一度唱えている。 「精神力は寝れば回復するから、睡眠もちゃんととってるんだけどなぁ・・・・・・」 「そうだな・・・例えば、お前が実はもの凄い精神力の持ち主だったとかはどうだ?今まで魔法が成功することのなかったお前の精神力は、家から出られない犬のフラストレーションのように溜まり膨らみ、しかしそれを全てあの一回で使ってしまった・・・とか」 確かにこれなら一晩寝れば元に戻るはずの精神力の回復の遅さの説明にはなる。他のメイジの精神力がエリー湖くらいだとするならば、ルイズの精神力プールはカスピ海並なのかも知れない。だとすれば、そこに再び水を満たすことはかなりの時間を要するというものだった。 「そうね・・・そうかもしれないわ・・・・・・」 「だとすれば、次最後まで唱えられるのはいつくらいかね・・・・・・」 「一月かかるか・・・・・・一年かかるか・・・・・・」 「十年とかな」 「冗談言わないで!」 「だが、魔法は一応成功してはいるんだろ?その、爆発が」 「そうね。規模は小さいけど、爆発はする。『虚無』は本当に未知のことばかり。呪文詠唱の途中でも効力を発揮する呪文なんて、聞いたことないもの」 さすがは伝説、右も左も解らないとはこのことだろうかとウェザーは湖面を見ながら思った。リンゴをかじる音だけが響いた。 「・・・・・・なんにせよ、今晩にそなえて寝ておくべきだな。お前は後方支援だが、切り札的な位置でもある。少しでも精神力を回復しておけ」 そう言うとルイズの隣に腰を下ろした。 「あんたいいの?アニエスの所にいなくて・・・・・・」 「俺はご主人様の使い魔でありますから、ハイ」 ふざけた調子でそう言ったウェザーは、肩に何かが触れるのを感じてそちらを向いた。ルイズの桃色の髪と、心なしか赤くなっている顔が見える。 「これはあくまで最近その使い魔の仕事もサボりぎみの使い魔に、わたしがわざわざ仕事を作ってあげるだけなんだからね」 「感謝の極みに恐悦至極」 「ちゃ、ちゃんと時間になったら起こしなさいよ!」 「了解」 「へ、変なことしないでよ!」 「しねーよ」 しばらくはもぞもぞと動いていたルイズだったが、そのうちに大人しくなった。ウェザーも作戦でかなり使うであろう力のために仮眠に入った。 二つの月が天の頂点を挟むようにして光っている。一日の内でもっとも闇が深くなる時刻がやってきたのだ。 そんな時刻にこのラグドリアン湖の岸辺に人影が現れた。人数は二人、大と小と区別はしやすいが、漆黒のローブを纏っているために素顔はおろか性別もわからない。 その二人組は水辺に立つと杖を掲げた。呪文を唱える小さな声が歌うように湖に染み渡りだしたのと同時に二人組の足下の土が隆起し、大きな手が二人の足を固定した。それに合わせて背後の木陰から影が飛び出してくる。 槍らしき武器を持ったその影は、三十メイルの距離を凄まじい勢いで五秒とかからずに縮めた。 しかし、二人組の反応はさらにすばやかった。迫りくる数瞬の間に、大影が足下の戒めを炎で焼き払い、それが終わるか終わらないかという絶妙のタイミングで小影が横に飛んだ。同時に風の魔法で大影を柔らかく飛ばし、距離を取ったのだ。 その間わずか三秒。結果突撃してきた影は二人の間を通過してそのまま湖に落ちていく。 「うわあああああッ!」 しかしこの叫びはその影のものではなかった。横に跳んだ二人は突っ込んできた影を見ていたためにお互いが向き合う形になっていたのだが、そこへ別の二つの影が剣を振り上げて背後から襲いかかったのだ。 一瞬。一瞬だけローブの二人組は驚いたようだったが、すぐに対処した。大小の影は自分の背後の敵ではなく、相方の背後の敵に照準を合わせたのだ。振り向く時間が無くなる分、行動は迅速になる。 ローブの二人の顔面を避けて進んだ火球と風は、正確に襲いかかる者達に向かった。その二人は何とか攻撃を避けるが、その間にローブの二人は再び合流して詠唱に入りだした。 先の魔法は状況から脱するための威嚇だったが、今度のは本気だ。片方が詠唱をずらしているのはお互いが隙を作らないための作戦だろう。 だが、二人の集中力は再び途切れることとなってしまった。またも何かが足を掴んでいるのだ。だが、今度は土ではない。別の何かだ。 二人組が足元を見ると、どうやら手らしいのだが、それは湖から伸びている。そして、何かを考える暇もなく、二人組は湖の中に飲まれていった。 水飛沫の上がった湖面の波紋も静まった頃、木陰からルイズとモンモランシーが顔を出した。 「作戦は上手くいったのね」 「うん。一応ね」 それに答えたのはギーシュだった。ローブの二人組を背後から襲ったのはギーシュとアニエスである。 「作戦通りウェザーが水中に引きずり込んだよ」 ウェザーの作戦はこうだった。ギーシュの『ワルキューレ:ブリュンヒルデ』の突貫によって敵を分断し、背後から強襲する。それで決着が付くのならばそれでいいが、もしもの保険にとウェザーが水中に身をひそめていたのだ。 しかし夜でも浅い場所なら透けて見えるラグドリアン湖でなぜ接近に気付かれなかったかというと、『全反射』を利用したのだ。 ウェザーの話では、『オゾン層を操作してこの湖畔に降る光の角度と空気の屈折率を変える。『ヘビー・ウェザー』の応用だ。カップに入れたコインが見る角度によっては消えて見えるの知らないか?『全反射』っていうんだよ。 エネルギーはバカみたいに食うから、範囲も狭くて長持ちしないがな』ということなのだが、この中の誰もが曖昧な顔をしたものだ。コルベールがここにいたのならば食いついてきたのだろうが。 実際に月を映し出すだけで湖の様子は窺えない。だが、それも徐々に薄れ、やがて中の様子が少し見え始めた。 「ウェザーだ!」 ギーシュの指差す場所には、雲の潜水服を纏ったウェザーの姿と、向き合うように構えている大小ローブの姿があった。しかしそれもすぐに見えなくなる。暗くてよくは見えなかったが、全反射を解いたのはどうやらそちらに回す余裕がないからのようだ。 「あの咄嗟で風の呪文を唱えていたのか・・・」 「この策は失敗だな。奴らはかなりの手練れだぞ、二対一はキツイ・・・・・・よし!」 やおら湖に飛び込もうとするアニエスをギーシュが慌てて取り押さえた。 「放せ!私が援護に行くッ!」 「だから、生身で入ったら水の精霊に心を奪われるんだってば!」 つまり、ルイズたちはただ指をくわえて見ているしかないのだ。ギャーギャーと暴れるアニエスたちをよそに、ルイズは自分がどうすべきかを考えていた。 (指をくわえてみているだけなんてイヤ!ここでなにもできなかったら、わたしは・・・わたしは何のためにこの力を持ったのか・・・・・・) ぎりっ、と歯がゆさに拳を握るが、そこで祈祷書を持っていることに気がついた。そして、まるで本が開けと囁いているかのような声が聞こえてきたのだ。誘われるままにページをめくっていくと、『エクスプロージョン』以外のページが読めるようになっているのに気がついた。 だが、そこに書かれた古代ルーン文字を見て力が抜けそうになった。 「・・・・・・ディスペル・マジック?これでどうしろっていうのよ・・・」 「ああ!水面が揺れているッ!」 水中の戦いは熾烈を極めているのかも知れない。考えている暇はない。この魔法が今出たのには何か意味があるのだ。 そう信じてルイズは詠唱を始めた。 水中に潜ったウェザーは舌を巻いていた。引きずり込んだはいいが、まさかあの咄嗟に魔法で水の精霊の干渉を防ぐとは思わなかった。 水面を通ってきた揺らめく月光をバックに、体勢を立て直した二人は潜水服を着たウェザーを見ると、何かを話し、杖を構えた。ウェザーも身構える。 先に動いたのは大きい方だった。一直線に湖底目指して潜り出す。どうやら水の精霊を先に攻撃しようとしているらしい。そうはさせじとウェザーも潜る。 潜水服は取り込んでおいた空気を排出することで加速して進めるが、ウェザーが吸う分の空気の残量もあるので無駄遣いは出来ない。 すぐに追いつくかと思われたが、回り込むウェザーの目の前を水を切って進む風が通りすぎた。視線を向けると、小さい方が杖をウェザーに向けているのだ。先にこちらを片づけないといけないらしい。 「かかってこいってか?」 ウェザーが接近を試みると、それを阻止するように風を飛ばしてくる。それをスタンドで弾きながら進む。あと少しで射程距離だが、何か違和感を感じる。 あれほどの反応を見せていた手練れが、なぜか大人しすぎる。水中だからといえばそれまでだが、その部分が小骨のように引っかかりだしたのだ。 (何かがあるッ!) その瞬間、後から気配を感じ慌てて振り向くと、湖底に向かったと思っていた大きい方がいつの間にか背後に戻ってきていたのだ。恐らくはこれが狙いだったのだろう。すでに向こうの射程距離だったのだろう、杖の先から炎球が放たれた。 ウェザーは咄嗟に潜水服の空気を排出してそれをギリギリでかわす。水中だからだろうか、炎球はすぐに萎んで消えてしまったが、ウェザーは挟まれる形になってしまった。しかも今回は少しでも傷を負えば、水の精霊の餌食になってしまうという条件付きなのだった。 だが、それ以上にウェザーを焦らせているのは空気残量がなくなりつつあることだった。敵もここが正念場と腹をくくったのか強力な魔法を唱え始めた。 (く・・・これしかない!) 二つの杖の先から強烈な風と巨大な炎球が放たれるのと同時に、ウェザーは残りの空気を使い体を上方に持っていく。そして自分がいた場所に向けて風圧の拳を放った。 三つの力はその地点でぶつかり、圧縮し合う。そして逃げ場を求めて力が一気に外に向けて炸裂したのだ。もの凄い力で押し上げられたウェザーとローブの二人は巨大な水柱とともに空中に投げ出された。 最初にルイズの異変に気付いたのはギーシュだった。謳うような声が耳に入り、振り向けばルイズが詩を諳んじているのだ。いや、詩ではない。これは・・・詠唱? 続いて気がついたモンモランシーが声をかけようとしたが、それをギーシュが制した。 「彼女には・・・今のルイズには何も届きはしないよ」 魔法を扱うものであれば一目見ただけでこのルイズの凄まじい集中力に驚くことだろう。 いったい彼女は何をしようとしているのか。かすかな期待が胸の内に生まれ始めたとき、背後で轟音がした。 「何が起きたんだ!」 「上だ!ウェザーたちが出てきたんだ!」 事態を見まもっていたアニエスが空を指差すと、確かにウェザーとローブの二人が見えた。しかもウェザーの雲の潜水服は背中が大きく裂けてしまっている。あれで落ちたのでは間違いなく水の精霊の餌食だ。 そして待ってましたとばかりに水の精霊が水面に現れる。もごもごと蠢くと、次の瞬間には湖が波打ち、何かの形を作り出したらしい。 横からでは見えないが、真上――ウェザーたちから見ると、湖が悪魔の顔のようになり、口を開いて落ちてくるのを待っている、とでも言ったところだろうか。 さらに悪いことに、ここで二対一の差が出た。大きい方が小さい方にレビテーションをかけたのだ。体制を立て直し、ウェザーの方を向かせると、小さい方が杖から魔法を放つ。 スタンドでガードしても下に押されてしまい水の精霊に捕まることは必至。ギーシュたちも魔法での援護をしたいがいささか遠すぎる。 誰もが最悪を想像したとき、眩い光が辺りを包んだ。 「ウェザァァ――――ッ!」 飛びそうな意識の中、敵の杖が自分に向くのをウェザーは人ごとのように感じていた。意識を繋ぐのに必至で体が動かない。 「くっそ・・・」 搾るような声が漏れたが、それだけだった。しかし、魔法をスタンドで防ごうとしたその瞬間に辺りが眩い光に包まれた。 「ウェザァァ――――ッ!」 ルイズの声がする。光に包まれると、不思議と心が落ち着いた。あの時と同じだ。タルブと、同じだ。 光は敵を包み込むと、放った風をかき消し、レビテーションまで無効化させてしまったらしい。真っ逆様に湖に落ちていった。しかしそれはウェザーも同じだった。どうする間もなく着水する。 「プハッ!」 すぐさま顔を出すが、水の精霊の攻撃らしきものは感じない。顔も消えてしまっている。ルイズの放った光に目でも眩んだのかと思っていると、二人組も湖から空気を求めて顔を出してきたのだ。攻撃しようかと腕を振り上げたが―― 「まってウェザー!あたしたちよ!キュルケとタバサ!」 ローブの下から現れたのは学校を休んで出かけていたハズの二人だった。 「お、お前ら何やって・・・・・・」 「それはあとよダーリン!下から水の精霊が来てるわ!」 ウェザーには見えないが、メイジであるキュルケたちには今まさに迫る水の精霊が見えるのだろう。だが、再び風を纏う精神力はなく、岸まで泳ぐには距離がある。 絶体絶命には変わりはなかった。だが二人は慌てず、タバサが指笛を吹く。そして間をおかずに羽ばたきの音が。 「きゅいきゅい!」 どこからやってきたのか、シルフィードが最大速力で湖面を駆け、すれ違いざまに三人は首や翼にしがみついた。手の形を作り出し捕まえに来た水の精霊は、しかし紙一重で取り逃すこととなった。 モンモランシーの『水』の魔法で治療を受けながら、ウェザーたちはキュルケたちの話を聞いていた。焚き火に焼かれる肉の匂いが鼻をくすぐる。 「しかし、お前らがあそこまで出来るとは・・・正直侮ってたぜ」 「まあね。これでも修羅場はくぐってきたつもりよ。あなた達の作戦も分断とか奇襲とかよかったけれど、連携は心の繋がりだからね。その点あたしとタバサは以心伝心、ハート・トゥー・ハートってやつ?」 「でも、なぜ君たちは水の精霊を襲っていたんだい?」 「何であなた達は水の精霊を守っていたの?」 肉をつつきながら尋ねたギーシュに、キュルケがそっくり返してきた。と、その話しそっちのけでアニエスが焼けた肉をウェザーの口に持っていく。 「さあ焼けたぞ!私が捕ってきた肉だ、存分に味わえ!あ~ん」 「いえ、前回十分堪能させていただきましたので結構です!」 「遠慮することはない。貴様のために捕ってきたのだからな。ほら、あ~ん」 アニエスはついにはウェザーを押し倒して実力行使に出始める。ドタバタと暴れる二人を苦笑いしながら見てギーシュがキュルケに答えた。 「あれをなんとかしにね。『水の精霊の涙』が必要なんだけど、そのための条件が君たちを倒すことだったとは」 「『水の精霊の涙』?じゃあやっぱり惚れ薬のせいだったのね」 惚れ薬の単語にモンモランシーが反応してしまい、当然それを見逃すキュルケでもなかった。 「作ったのあなただったのね。大方ギーシュにでも飲ませるつもりだったんでしょうけど、ギーシュの手綱くらい握れなきゃあ自分に自信がないって言ってるようなものよ」 「うっさいわね!そのギーシュが浮気ばっかりするからいけないんじゃない!あの浮気性はもはや重病よ?悪性腫瘍なのよ!」 「もとを辿ればぼくのせいなのかもしれないけど、それにしたって二人とも酷くない?」 ガックリと肩を落とすギーシュだった。そしてキュルケも困ったように隣のタバサを見つめる。彼女はただじっと、焚き火の炎を見ているだけだ。 「参っちゃったわねー。あなたたちと戦うわけにもいかないし、かといってここで退いちゃうとタバサの立つ瀬がないし・・・・・・」 「タバサが?何かあるのか?」 「え?あ、そ、その、タバサのご実家に頼まれたのよ。ほら、水の精霊のせいで水かさが増して、おかげでタバサの実家の領地が被害に遭ってるらしいの。それであたしたちが退治を頼まれたってわけ」 となれば手ぶらで帰すわけにも行かない。しばし考え込んでから、ウェザーは結論を出した。 「ようは水が引いて土地が戻ればいいんだろ?だったら交渉して決着つけりゃあいい。幸いこっちにゃ『水』の使い手がいるんだからな」 視線が一気に自分に集まったモンモランシーは「え?あ、あたし?」と狼狽えていたが、ウェザーに促されて水際に立ち、水の精霊の呼び出しを開始した。しばらくしないで水の精霊がモンモランシーの姿で現れる。 「・・・・・・・・・・・・お前たちか。不思議な光のせいで襲撃者を逃したようだが、何用だ?」 思い出すのにタイムラグがかなりあった辺り、ウェザーごと飲み込もうとしたのは覚えていないのだろう。さすがは悠久を生きる存在。 「逃がしてはいないわ。もうあなたを襲うものはいなくなったのよ。約束通り体の一部をちょうだい」 モンモランシーがそう言うと、水の精霊は細かく震え、体から水滴を飛ばした。それをギーシュが持っていたビンで慌てて受けとめる。そして、もう用はないとばかりに沈みだした水の精霊をウェザーが呼び止めた。 「もう一つお願いだ。水かさを増やすのをやめることは出来ないのか?もちろんタダとは言わん。理由があるなら聞くし、力になれるならなる」 そのセリフに水の精霊は様々な仕草を見せたが、やがてしゃべり出した。 「お前たちに任せてよいものか我は悩む。しかし、お前たちは我との約束を守った。ならば信用してもよいと思う」 回りくどい言い方で切り出すと、水の精霊は唄うように語りだした。要約すると、古より守ってきた秘宝が二年くらい前に人間が盗んだ。水かさを増やすのはそれを探すためであって、見つけるまでは底なしに増えるらしい。 「よーするにだ、その秘宝を取り返せばオールオッケーなんだろ。秘宝の名前はなんだ?」 「『アンドバリ』の指輪。我が共に、時を過ごした指輪」 聞いたことがあるわと言ったのはモンモランシーだ。 「『水』系統伝説のマジックアイテム。たしか、偽りの生命を死者に与え、傀儡の如くに扱えるという・・・・・・」 モンモランシーの説明にギーシュ、キュルケ、タバサ、そしてさすがのアニエスも互いに顔を見合わせた。 「そりゃまたけったいなモンをパクッたもんだな。誰が欲しがるんだか・・・・・・」 「恐らくはクロムウェルね・・・聞き間違いじゃなければ、アルビオンの新皇帝よ。間違いないわ・・・タルブ村での戦闘の時、レコン・キスタはアルビオンで死んだウェールズ皇太子の部下たちの死体を操って襲ってきたわ」 ウェザーとルイズが目を見開いた。短い間では合ったが、同じ城の中で過ごした時もあった仲だ。やるせなさと同時に、吐き気を催すようなやり口に怒りが沸いてきた。 「いいだろう。その『アンドバリ』の指輪は必ず取り返してやる。彼らの魂の安らぎのためにもな」 「わかった。ならば約束通り水を増やすのをやめよう。我はお前たちの寿命が尽きるまで待とう。明日も未来も、我には変わらぬ・・・・・・」 水の中に姿を沈めながらそう言い残した。しかし、いざ消えようとしたところでタバサに呼び止められた。タバサが他人を呼び止める事に全員が驚いていた。 「待って水の精霊。あなたはわたしたちの間で『誓約』の精霊と呼ばれている。その理由が聞きたい」 「単なる者よ。我とお前たちでは存在の根底が違うゆえ、理解ができかねる質問だ。が、おそらくは我の変わらぬ存在に、お前たちは変わらぬ何かを結びつけ祈るのだろう」 タバサは頷き、目を瞑って手を合わせた。いったい誰に何を誓っているのか。キュルケだけがその肩を優しく抱いた。 「それではぼくも」 そう言ってギーシュが胸を張り高らかに宣言した。 「ギーシュ・ド・グラモンはこれから先、如何なる時もモンモランシーを愛し守ることを誓います!」 「ギーシュ・・・・・・ふ、ふん。ちっとも嬉しくなんか無いんだから。あんたの事だから、どうせ三日坊主でしょうからね」 素直でないモンモランシーに一同は苦笑した。その時、アニエスがウェザーの裾を引いた。 「私たちも誓おう」 「・・・できかねるな」 ウェザーの言葉にアニエスは眉をひそめた。もしかしたら泣きそうなのを必至で堪えているのかも知れない。 「なぜだ?やはりこんな筋肉女ではダメなのか?女らしさが足りなかったのか?」 「そうじゃあねーよ。ただ、今のお前じゃ話にならないってことさ。この件に片がついて、それでも誓って欲しいって言うなら考えてやらないでもないがな」 そしてアニエスの頭を優しく撫でた。 「オメーはキレイだよ。そこんところは自信持っていいぜ」 アニエスは俯いてしまったまま動かない。しばらくの沈黙の後にキュルケが切り出した。 「そう言えばダーリン、あたしたち付近で悪事を働いていたスタンド使いを一人捕まえたのよ!」 「何ッ!大丈夫だったのか?」 「ふふーん、あたしとタバサにかかったらちょちょいのちょいよ。ねータバサ」 「それでも全滅間際だった」 「あん!バラしちゃやーよ、せっかくのお手柄なんだから脚色して褒めて貰おうと思ったのに」 タバサが言うからには本当なのだろう。スタンド使い対メイジならば、先制攻撃がとりやすいスタンド使いにアドバンテージがあるものだ。ましてメイジはスタンドに干渉できても視認できない。そのハンデを覆しての勝利となればこれは大殊勲ものだった。 「ふぁあぁあ・・・何か眠くなって来ちゃったよ」 ギーシュのあくびが伝染したのか、急に眠気が全員の瞼にのしかかってきた。 「あたしたちは報告に戻るわ。ダーリンたちはどうするの?」 「せっかく来たんだし、湖畔で野宿も悪くないさ」 翌朝スタンド使いの身柄を引き渡すことにして、キュルケたちはシルフィードに跨り深夜の空に飛び立っていった。 ウェザーたちも持ってきた毛布を纏い、疲れに引きずられるように眠りに落ちていった。対面の木には仲良く頭を預け合って寝ているギーシュとモンモランシーの姿が。ウェザーも木にもたれて寝ようとすると、右にルイズ、左にアニエスが寄りかかってきた。 「ものすっごく寝にくいんだが」 「がまんしなさい」「耐えてくれ」 問答無用で同時にそう言われて、反論する間もなく二人は睡眠に入ってしまった。 「ったく・・・・・・」 ため息を漏らしながらもそれほどイヤな感じがしないのはどうしてだろうか。 空と湖。四つの月が見える湖畔に吹く風は初夏にしては冷えるが、五人の体は温かかった。 「で、本当に治るんだろうな?」 「大丈夫。これで失敗でまた同じ苦労するのはわたしもイヤよ」 翌日、件のスタンド使いを引き取り一行は学園に帰ってきた。スタンド使いは火傷などの重傷を負っており、処置はしたが意識不明のままだった。もっとも、犯した罪の重さから死罪は免れないとのことである。 帰ってきてまずモンモランシーの部屋に駆け込み、突貫作業で調合を済ませて解除薬を完成させたのだ。モンモランシーは額の汗を拭いながら、椅子の背もたれにどっかと体を預けて疲れたようにそう言ったのだった。 「よし、これを飲めアニエス」 「うっ・・・!く、臭いぞ、これ」 何を混ぜたらこうなるのかと言うような臭いがるつぼから立ちこめている。アニエスが拒むのも当然と言えるが、ここは無理にでも飲んで貰わなければならない。 「これは・・・そう、特訓だ。毒に対する耐性をつけるために用意した特訓なんだ」 「特訓・・・ウェザーが私のために用意してくれたのか!ならばどんなものであろうと飲み干してみせよう!」 言い放つとウェザーの手からるつぼを奪い取り、一気に飲み干した。さすがに一気はまずくないかと一同が心配そうに見守る。と、そんな中でモンモランシーがウェザーの脇をつついた。 「取り敢えず覚悟しといた方がいいわよ」 「覚悟?」 「だって、惚れ薬の効果でメロメロになってた時間の記憶はまるまる覚えてるわよ。アニエスって人がどういう性格かは知らないけど、自分の意志とは無関係にあれだけのことやってればねえ・・・」 だったらお前の方が危険なんじゃないかと言いかけたところで、ひっく、としゃっくりが一つ聞こえてきた。 「ふぁ?」 間の抜けた声を出したあと、憑き物が取れたように表情がハッキリとしてきた。そしてみるみる顔を紅潮させ、額に血管を浮かばせて引きつった笑みを見せた。 「あー・・・まず殴る?」 一撃くらいは覚悟してやるかと奥歯を食いしばったが、アニエスは引きつった笑みのままそれを辞退した。 「私はこのあともスタンド使いの取り調べがあるんでな。これで失礼する」 指の関節をごきごきと鳴らしながらそう言ってのける。この時ウェザーは心の底からスタンド使いを捕まえたキュルケとタバサに感謝したという。あとは質問が拷問に変わらないことを祈るのみだ。 アニエスは出ていくときにルイズとすれ違った。 「治ってよかったわね」 「ああ、そうだな。君の使い魔を借り受けて君にも迷惑をかけたな。だから―――」 最後の部分はルイズにもよく聞き取れなかったが、アニエスは歩みを止めることなく去っていった。 罪人を運ぶ護送馬車に乗りながらアニエスは空を見ていた。 「キレイ・・・・・・か」 力が物言う職場上、腕を磨くことのみを考えて生きてきた。それが自分の目的のためにもなることは解っていたからだ。だから、面と向かって『キレイ』だなんて言われたことはない。 アニエスが最後に言った言葉は「また迷惑をかける」だった。それがどういう意味を持つのかは言った本人でさえよくわからなかったが、少し興味が湧いてきた。 「なにか良いことでもおありでしたか?」 隣の御者の声に我に返った。顔を触ってみれば、なるほど、確かに笑んでいたようだ。 「そうだな。疲れたけれど、いいことだったよ」 空は夏らしく高く、入道雲が昼寝をするかのように横たわっていた。 後日談として。 誰が流したのか『アニエスがウェザーに惚れている』という噂が王宮に広まり、その後の二人の様子から『アニエスはウェザーに捨てられた』に発展し、アニエスを隊長に据えた新組織の銃士隊の面々から、ウェザーはしばらく刺すような視線を浴び続けたとか。 To Be Continued…
https://w.atwiki.jp/aaawiki/pages/261.html
青単 ■デッキの特徴 飛び交う光弾、爆発する無数のスキル、美しく華麗な弾幕。 強力かつ多彩なダメージスキルこそ青の特色であり、オルタレーションもダメージ系ばかり。 直接の妨害スキルは無いが、画面上に滞在する強力なダメージスキルはそれ自体が移動妨害。 画面全体をスキルのエフェクトで満たし、相手MBの冷静な判断力を奪う。 魔女と聖女の美麗なる共演、しかと見届けよ! 強力なダメージスキルではあるが、その効果はダメージだけなので過信は禁物。 ディーテや西王母のスキルと相打ちになると、結果的に1発2発のダメージ差など瞬時に覆される。 固定砲台などもってのほか、相手の攻撃をかわしながらスキルを撃つべし。 しかし分散すると集中攻撃を受けやすく各個撃破されやすい……そんな矛盾を抱えたデッキ。 決して安定した強さは無いが、美しさでは最高峰。 ダメージスキルで相手を取り囲み、思いどおりに勝てた時の嬉しさは最高だ。 ■典型的レシピ 合計コスト7で開幕クラリス+worksを降臨させるデッキが青単では有名。 このデッキは両者が同時に出なければ何の意味もないので、必然的に自MBを相手にある程度殴らせねばならない。 しかし両者が揃えば、そのHP差を覆すに充分な威力の光弾を安定供給できる。 また、低コストの光弾キャラにポーラを組み合わせた弾幕デッキ、そしてミナで弾幕キャラを守るデッキもある。 それなりのコストで大きな攻撃力を発揮するが、白青や緑青と違って、守りの手段に隙が大きすぎるのが難点。 イヴやマギナを組み込んで少しでも隙を減らそうとする事はできるが…… いかにして自「キャラ」を殴らせずスキルを撃つか、というのが主題なので、スピードの遅い相手なら走って逃げ、 スピードの速い相手ならMBを盾にして相手キャラを片付けるのが常套手段。 青単MBはクラリス+worksを使わずとも殴られてなんぼなのである。 6th追加後,クラリスの上方修正とアニエスの追加により過激なスーサイドデッキが登場。 例:クリス・ナターリア・アニエス・クラリス・エリナ+ダメージオルタ2枚 序盤はわざと殴られながらナターリアかクリスで適当に時間稼ぎし,頃合いを見計らってクラリス+アニエスを同時召喚。 あとはMBとクラリスでアニエスを守りつつ敵キャラとMBをまとめて殲滅すれば終了。 青のキャラは実に綺麗にコスト帯ごとに分離しているので、さまざまな組み合わせを試せる。 マーリン、ルツィエ、ジリアンの弾幕トリオが4コスで出現するというのも面白い。 実の所、クラリス+works以外には、青単に典型的レシピなど無いのかも知れない。 オルタレーションもダメージ系が揃っており、どれを入れてもよく働く。……ノルン以外。 ■大雑把な対策 叩き出すダメージ量は絶大だが、極めて隙が大きいのが青単。 見た目に惑わされず冷静に歩き、走り、殴るべし。 赤や緑の妨害光弾ならば優位に立てる。相手のダメージ1発くらい相打ちでくらってあげよう。 黄の妨害光弾はあまり効果がない。 パワーやスピードを下げてもスキルメインの相手には意味がなく、HP低下だって相手の方が総じて威力が高い。 しかしレイナだけは例外。立ち止まってスキルを使う青に、これ以上のプレッシャーはない。 対開幕クラリス+works カマエルやラユューや翼など、高ダメージを叩き出せるキャラがいるなら エナジーが溜まるまでに相手MBのHPを削るという選択肢もなくはない。 低パワーキャラで細かく殴りに行くと、アドバンテージを得られないまま両者が降臨してしまう。 こちらのデッキが翼+ポーラやシヴァ・マト等ならば、こちらもエナジーを溜めて陣形を完成させてしまおう。 降臨した後、274は殴りと光弾によるノックバックがあるので、まずクラリスから落とす。 クラリスの増幅効果がなくなれば274の光弾はパワー1未満まで低下する。あとは鬱陶しい274を集中攻撃。 274から先に落とす手も、やってはいけないわけではない。大きなノックバックがあるので挟み込まれる事もないだろうし。 どちらにしても、片方を無視してでも1体を潰すことだ。 対開幕光弾ペア(マーリン&ルツィエ、またはジリアン&ルツィエ) とにかく見た目の派手さに惑わされないこと。翼ほど早くも強くもないので。 そしてこの2人の真後ろにキャラをブレイクするなどし、積極的に妨害に行く。 光弾ダメージは後ろから受けてもバックアタックにならないので、MBは自由に逃がしておこう。 3人目に何が来るにしても、光弾の援護は鬱陶しいものである。 青単は殴りあわないぶんエナジー生成が遅いので、テキパキ片付ければこういう開幕展開はあまり怖くない。 対ミナ 大威力の地雷型スキルで弾幕キャラを守ったりMBの位置に奇襲をかけたりしてくるキーキャラクター。 スピード3なので追いかけっこにも強いが、詠唱中に近付いて殴ろう。 スキルはMBならば魔方陣を見てから歩いても避けられるが、スピード1のキャラで避けるのはかなりシビア。 非常に威力が高く、特に注意して避けなければいけないスキル。 ダッシュの使い方も考え、上のモニタをよく見ておこう。 基本的に低コストでも爆発力があるが、隙が大きく、集中攻撃であっという間に落ちるのが青単。 光弾にはロュスやはるか、スキルには万城目や新名など対策カードも多く、 それでなくとも光弾は数多い長刀型スキルや突撃スキルで打ち消せてしまう。 初心者は「光弾キャラは忙しく動かさずともよいので楽」と感じるかも知れないが、そうは問屋が卸さない。 いくら強力とはいえ所詮ダメージ1発。ダメージ覚悟で突っ込めば、簡単に詠唱を妨害できる。 青はパワーも低く、大抵の高スペックカードなら青2人くらいは落とせるはずだ。 愛されている勢力、WIZ-DOM。 しかしその打たれ弱さは本家Saga1時代からまったく変わっていない。 ……そこがまた人を惹きつけるのかも知れない。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7943.html
前ページ次ページルイズと無重力巫女さん ――トリスタニア一の規模と伝統を誇る劇場、タニアリージュ・ロワイヤル座。 神殿を思わせるような豪華な石造りの立派な劇場に、今日も貴族平民問わず大勢の客が足を運んでいた。 劇場内にあるリストランテでは、フレンチトーストとホットミルクの匂いが漂い、 劇場のエントランスにある大きな売店ではポスターやアクセサリーといった、今月公演される劇のグッズが店頭で売り出されている。 更に劇のお供としてポップコーンやジュース、クッキーと言った軽い食べ物を出す準備も同時に始めていた。 チケット売り場の方ではどの劇を見ようかと、多くの客達が今日公演される劇の一覧表と睨めっこしている。 観賞一回分の料金は並の貴族達にとっては安い物だが、下級貴族や平民達にとっては月一の楽しみを提供してくれる魔法の紙である。 それに、今日最初の劇が始まるまで後数時間あるため、十分に選ぶ時間があった。 そんな客達の中でも、一際目立つ年老いた貴族がお供の騎士を連れてある場所を目指して歩いていた。 老貴族は立派な服にいくつもの勲章を着けており、一目見ただけでそれなりの地位を持つ者だと教えてくれる。 お供の騎士達もまたお揃いの黒いマントに黒い帽子、そして体から漂わせる雰囲気は見る者を圧倒させる。 そんな騎士達とは正反対に人の良さそうな顔つきの老貴族はすれ違い様に頭を下げてくる他の貴族達に対して丁寧に礼を返していく。 やがて老貴族とお供の騎士達は、人気の少ない、劇場の二階へときたところで足を止めた。 彼らの目の前には、国内でも有数の大貴族達しか利用できない鑑賞席へと続く大きな扉がある。 通称゛ボワット゛と呼ばれるその席の所為で、防犯上二階のスペースは狭く、リストランテや休憩場所といったエリアは全て一階に集中している。 老貴族は改まって自分の身なりを正すと、騎士達の方へ顔を向けて喋った。 「君たち、仮面はちゃんと持ってきているだろうね」 優しそうな雰囲気が漂ってくるその声に騎士達は全員頷くと、マントの中に隠していた仮面を取り出し、被った。 それを見て老貴族は満足そうに頷くと懐を探り騎士達と同じ仮面を取り出し、被る。 「いいかね?ここから先は失礼のないように頼むよ」 仮面を被った老貴族の声は、先程の優しそうな声は、まるでヘリウムガスを吸ったかのようなダミ声へと変化していた。 騎士達は老貴族の言葉に頷くと、彼の前にいた一人の騎士が゛ボワット゛へと続くドアを開け、中へと入っていった。 既に゛ボワット゛には幾人かの先客達と彼らのお供らしき騎士達がいたが、全員が全員同じデザインの仮面を被っていた。 そして彼らもまた、老貴族と同じように古くからこの国を支えてきた者達である。 老貴族は辺りを見回して自分のすぐ目の前に空いている席があるのに気づくと、そこへ腰を下ろした。 「なにをしていたのだ、あと一分遅ければ遅刻だったぞ?」 席に着いた瞬間、右の席に座っていた細身の貴族が怒ったようなダミ声で老貴族に言った。 「いやぁ~すまない。何分馬車がトラブルを起こしてしまい…」 一方の老貴族はすまなさそうに頭を掻きながらも今日最も不幸だと思う出来事を口にする。 そんな老貴族に細身の貴族はやれやれと首を横に振った瞬間、ふと彼らの後ろに設置された大型のカンテラに火が灯った。 普通のカンテラとは桁が違うサイズのカンテラが灯す火は大きく、今まで暗かった゛ボワット゛をあっという間に明るくした。 突然の事に仮面の貴族達は一瞬驚いたものの、今度は頭上から声が聞こえてきた。 ―――やぁ皆様、お忙しいところを、このような会合に付き合わせる事を深くお詫び致します 頭上からの声に貴族達は席を立ち、頭上へと視線を向ける。 ―――…さて、実は昨日…この国を捨てようとした無礼な内通者が一人、亡くなったそうです 声は悲しそうに、だけど嘲笑うかのような感じで喋り始めた。 ―――彼は、天誅を受けたのです。天誅を。 王族を侮辱し、あまつさえ欲に走ったのだから当然とも言いましょうか? きっとこれから先しばらく、レコン・キスタという王族に杖を向ける愚か者共の刺客がやってくるでしょう。 そして、その刺客共をこの国に入れる鼠もまた増えるに違いありません そこまで言ったとき、ふと先程の細身の貴族が声を荒げて言った。 「ならば我々がする事は……レコン・キスタの刺客共と内通者の鼠たちを駆除するのみ!」 勇気溢れるその言葉に、周りの貴族達は頷き「そうだ、駆除しなければいけない」と呟く。 そして、頭上からの聞こえてくる声の主もそんな彼らに同調するかのような言葉を口にする。 ――そうです、国を売る内通者とレコン・キスタの輩どもは駆除しなければなりません。 その汚れ仕事は王族ではなく、現役を退こうとしている我々が請け負うべきものです! ▼ 何ヶ月か前に始まったこの会合に集う貴族達は皆、この声の主と同じ考えを持っていた。 ゛王家の目に入らぬ場所で平然と悪行を繰り返す他の貴族達を何とかしたい゛ そんな願望を持つ者達だけが集まれば、次第と結束力は高まっていく。 最初は若い貴族はどうだのアイツは横領しただので、単なる愚痴のこぼしあいであった。 しかし、いつの頃からか次第に愚痴の内容が過激なものになっていった。 そしていつしか、彼らは自らの権力を使ってこの国を綺麗にしようと決意したのだ。 ゛この国を食い物にする不届き者たちを、我らの手で裁いて行こう゛ 単なる愚痴のこぼしあいが、裏社会で暗躍する小規模な組織へと変貌するのにはそれほど時間は掛からなかった。 ▲ ―――敵は多い。されど私たちの結束力は幾億万の軍勢にも匹敵する。 さぁ行きましょう皆さん。この私…゛灰色卿゛と共に栄えあるトリステイン王国を綺麗にする為の闇の戦いへ! 掃除するのです!この国、そのものを! 声の主がそう言った瞬間、貴族達がワッと声を上げた。 「「「「「「「「灰色卿!灰色卿!灰色卿!灰色卿!」」」」」」」」 彼ら以外にまだ人がいない劇場を、熱狂した貴族達の声が響く。 まるでアンコールをする劇の観客達のように、右手を振り上げて叫ぶ。 自分たちの手で始まろうとしている劇の開幕を喜ぶ観客達の如く。 王族は勿論、枢機卿達ですら詳しく知らない、愛国心溢れる古参貴族達の集まり… それは、今まさに活躍の時と言わんばかりに動き出そうとしていた。 ◆ ―――る始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を与えたもうことを感謝致します」 トリステイン魔法学院の大食堂では、朝食を摂る前の祈りが行われている。 それを耳に入れつつ、霊夢と魔理沙の二人は一足先に食堂入り口の右端に設けられている休憩場で朝食を食べていた。 本来ならそこで食事を摂ることは禁止されている。 しかし朝食へ行く前にルイズの部屋を訪ねてきたシエスタがニコニコと笑いながら、 「あの、床に座って食べるのなら是非とも食堂の休憩場を使ってくれって…料理長が言っていまして」と言ってきたのだ。 ルイズはそれに一時反対したものの、昨日の事もあってかすぐに了承した。 「まぁ二人も足下にいると鬱陶しいことこのうえないからね」 そっぽを向きながら言ったルイズに、シエスタは満面の笑みを顔に浮かべて頭を下げた。 その時、ルイズの言葉を聞いて今まで霊夢が何処で食事を取っていたのかを察した魔理沙は驚いていた。 「普通、大理石の床に座って食べるか?」 「立ったまま食べるのってなんか疲れるのよねぇ。それに座っても損することはないし」 こうして二人は床に座ることなく、朝食を食べる事が出来ていた。 メニュー自体は霊夢が食べていた物とほぼ同じボリュームの食事である。 キャベツや細切りのニンジン、薄切りベーコンが入ったコンソメスープに小さめのボールに入ったサラダ。 小皿の上には雑穀パンが二つと空のティーカップ。コップにはレモンの果汁が入った炭酸水。 シエスタ曰く「私たちが朝早くに食べる朝食と同じもの」らしい。 それと比べれば、生徒達が食べているメニューとでは雲泥の差があった。 「ささやか…ねぇ。じゃあ素晴らしい糧だとあれの倍くらい出るのか」 魔理沙はサッパリとしたドレッシングが掛かったサラダを食べながら、ようやく食べ始めた生徒や教師達の食卓を見つめていた。 仔牛のステーキに、鱒の形をした大きめのフィッシュパイや色とりどりの果物。 バスケットに溢れんばかりの白パン、そして極めつけは朝からボトル一本丸まるのワインである。 これは朝食ではなくディナーと言われたら、魔理沙は疑う事はしなかったであろう。 最も、魔理沙にとっては食事のことはどうでもよく、ワインボトルの方に目がいっていた。 「やれやれ…朝から酒とは、よっぽど飲兵衛が多いんだなこの世界って…――……――う…?」 一人呟きながらも魔理沙は出されていた水を一口飲み、顔を顰めた。 口の中に入れた瞬間、シュワシュワと音を立てて弾けていく感覚で口の中に入れたのが何なのか、すぐにわかった。 (この感じはラムネだ…でも、甘くない。しかも酸っぱい) 無糖の炭酸水を飲んだことが無い魔理沙にとって、それは甘くないラムネであった。 更にレモン果汁が入っているという事も気づかないでいた。 「どうしたのよ。腹でも壊した?」 雑穀パンに齧り付いていた霊夢が黙り込んでしまった魔理沙に気づき、声を掛けた。 魔理沙は霊夢の言葉に首を横に振りつつ、口の中に入れた炭酸水の感想を述べた。 「いや…てっきり普通の真水かと思ってたんだが…ラムネだったとは…しかも甘くないぜ…」 「え?ラムネェ…?」 数年前から幻想郷の人里で流行始めた変な甘い飲み物の名前が出た事に、霊夢は首を傾げた。 子供達の間で人気らしいが以前霊夢はチョビっとだけ飲んで、あの口の中で弾ける感触を味わって以来嫌になってしまった。 あの変な飲み物がこの世界にもあるのねぇ。と呟きつつ霊夢はコップに入った炭酸水を一瞥した。 やがて朝食の時間が終わり、腹を満たした生徒や教師達が食堂からぞろぞろと出てきた。 これから授業の準備をしなくてはいけない為、自室へと戻る最中なのである。 その光景は、正に蟻の行列と言っても差し支えはないであろう。 一足先に食べ終えて外に出ていた霊夢と魔理沙は食堂から少し離れた所でそれを眺めていた。 「いやはや、こんなに多いとある意味蟻の行列みたいだよな」 「あんだけ多いと食事を作る方も随分と大変ね」 大きなトンガリ帽子を人差し指で器用にクルクルと回している魔理沙の言葉に、霊夢も頷く。 今視界に映っている程の大行列は、幻想郷で暮らしていた魔理沙にとっては今まで見たことが無かったのである。 一方の霊夢は、人数分の料理を賄い含めて作れるマルトーやシエスタ達に改めて感心していた。 「―――…んなところにいたのね!二人とも!」 その時、ふと行列の中から聞き慣れた声と共に、生徒達の行列から一人の少女が出てきた。 行列を見つめていた二人はすぐさま、列から出てきて少女がこちらへ走ってくるのに気が付いた。 「…ん?あれって、ルイズの奴じゃないか。…おーい!」 速くもなく、また遅くもないスピードで走ってくる少女に魔理沙は手を振る。 魔理沙の言うとおり、その少女はピンクのブロンドが目立つルイズであった。 「確かに。あの髪の色は間違いなくルイズね」 霊夢もすぐさまルイズだとわかり、挨拶程度に手を軽く振った。 二年生の証である黒いマントをはためかせて走ってきたルイズは、すぐさま二人のもとへとたどり着いた。 走ってきたルイズは肩で息をしながら、霊夢と魔理沙に声を掛けた。 「…全く、いつの間にかいなくなったと思ったら…ハァ…こんなところで何してるのよ」 「蟻の行列を見てたぜ。でっかい蟻のな」 魔理沙の口から出たその言葉の意味を理解できず、ルイズは首を傾げた。 「…アリ?…そんなの見ていて楽しいの…?まぁそんな事より、ちょっとついてきて欲しいんだけど」 ついてきて欲しいという言葉に、霊夢はすぐさま次に「授業についてきて」という言葉を連想した。 以前この世界に来て最初の頃に断ったのにもう忘れたのかしらと思った霊夢は、溜め息をついた。 「授業なら私は行かないわよ。魔理沙でも連れて行けばいいんじゃない?」 「おぉ、魔法を学ぶ学校の授業か。それは興味あるな」 「授業」という単語に魔理沙はすぐに目を輝かせた。 しかし、霊夢の予想は珍しくも外れたようでルイズは首を横に振った。 「違うわよ。今から学院長室に行くのよ」 「学院長室?あぁ、魔理沙の事ね」 思い出したかのような霊夢の言葉に、「それもあるけど」と言いながらルイズは言葉を続ける。 「アンタのルーンの事で話したい事があるそうよ」 ルイズは霊夢の左手の甲に刻まれているガンダールヴのルーンを指さしながらそう言った。 ◆ ブルドンネ街の一角にある高級ホテルの付近には、朝から多くの野次馬達が見物しに来ていた。 最初の方こそ数人程度であったが、時間が経つごとに人が増えていき今ではその数は三十人ほど増えている。 そんなとき、ホテルの方で何やら人だかりができているという話を聞いた一人の男が興味本位でやってきた。 話どおりホテルの前には大勢の人達がたむろしていて、何やらボソボソと話し合っているようだ。 来たばかりの男はとりあえずどうしようかと悩み、近くにいた別の男性に詳しい話を聞いてみることにした。 「なぁ…こんなに人が集まってるが…何かあったのか?」 彼の横にいた大柄な男性は突如そんなことを聞かれて目を丸くしたが、すぐに返事をした。 「何だよ、知らねぇのか?あのホテルでな、貴族が一人殺されたんだよ」 「えぇ…ま、まさか殺人事件…!それは本当かい…?」 男の口から出た゛殺された゛という言葉に彼は目を見開いて驚愕した。 治安がある程度にまで整っているブルドンネ街ではスリや詐欺はともかくとして、強盗や殺人といった類の事件は滅多に起こらないのだ。 「嘘なもんかい。俺がいつも使ってる道には検問が張られてるし、出入り口で待機してる衛士隊の連中が何よりの証拠だろう」 半信半疑な彼に呆れるかのように男は肩をすくめて言うと、ホテルの入り口を指さした。 ホテルの出入り口では、平民のみで構成された市中警邏の衛士隊数人が武器を持って佇んでいた。 立派な造りの槍とその体から出る緊張した雰囲気は周りにいる市民者達を威圧し、ホテル付近で釘付けにしている。 数人一組で街をパトロールし、犯罪者を見つければ訓練された動きで即時逮捕する彼らは、犯罪者達にとっては身近に潜む危険そのものであった。 ただメイジの犯罪者ともなれば殆ど魔法衛士隊の出番となるが、それでも彼らは犯罪者と日夜戦っている。 ある意味畏怖される存在でもあるがそれと同時に、頼れる存在でもあるのだ。 衛士が出入り口にいるのを確認した彼の顔は、みるみる真っ青になっていく。 「ホントだ…世の中って、おっかねーのな」 一方ホテルの中では、多数の衛士隊の隊員達がホテル内をくまなく捜査していた。 その範囲は広く、客室や従業員の寝泊まりする仮眠室、厨房や浴場等ほぼ草の根を掻き分けるような状況であった。 殺されたのが王宮勤務の貴族だったからという理由もあるが、本当の理由は全く別のものであった。 ◆ そんなホテル内の一室、今回の事件の被害者である貴族が宿泊していた客室。 部屋の真ん中に放置された貴族の死体を一人の隊員がスケッチをしている。 スケッチは身体全体から両手両足、そして苦痛に歪ませた顔など、細部にまで至った。 一方、その部屋の片隅では二人の女性隊員と衛士隊の隊長と思わしき男が鞄の中に入っていた書類を調べていた。 二人ともかなりの美人ではあるが、体から発せられる無骨な剣のような重苦しい雰囲気がそれを台無しにしている。 「…隊長、やはり被害者はレコン・キスタの内通者と見て間違いは無いでしょう」 書類の内容を流し読みしていた金髪の女性隊員が、傍にいる隊長にそう言った。 彼女の名はアニエス。衛士隊に入ってから既に一年と五ヶ月程度の月日が経っている。 この職に就く前は街の一角にある粉ひき屋で働いていたという。 武器の扱いには長けており。敵対する者に対して容赦のない性格はこの仕事にうってつけであった。 結果、女性隊員だというのにもかかわらず僅か一年で市中警邏のリーダーとなったのである。 隊長は彼女の言葉に頷くと、鞄の中に入っていた一枚の書類を手に取り、流し読みをする。 「…レコン・キスタめ、これをもとに一揆の煽動でもするつもりだったのか?」 その書類に書かれていたのは、首都から離れた地域の納税率をまとめたものであった。 納税率の小さい地域に住む者達はとても貧しく、税を減らしてくれと頼みに土地を収める領主ではなくわざわざ王宮にまで来るのだ。 当然その村に住む者達は王宮に対しての反逆心を抱いており、隙あらば小規模な運動を起こすのである。 歴代の王もそのような者達の活動に頭を悩ましていたのだ。 書類を手に取った隊長についで、青髪の女性隊員も鞄から書類を一枚手に取り、目を通し始めた。 彼女の名はミシェル。アニエスとほぼ同時期に入隊した女性隊員だ。 彼女に負けず劣らずの堅苦しい性格の持ち主で、右腕的存在でもある。 生真面目で勇敢な性格のおかげで周囲の者達からも信頼され、今ではアニエスの補佐として働いている。 ただ唯一不思議なことは、衛士隊に入るまで彼女が何処で何をしていたのか――それを誰も知らないという事だ。 「この書類の数々…写し取りではありますが、とてもじゃないが被害者の権限では扱えぬ代物です」 ミシェルは手に取った書類を流し読んだ後に振り返り、背後で奇妙な死に方をしている被害者の姿をもう一度見た。 ◆ 事の始まりは昨日の深夜にまで遡る… 衛士隊の詰め所に、ホテルの従業員と思われる青年が殺人事件だ!と叫びながら駆け込んできたのである。 突然の事にポーカーをしていた二人の隊員は驚きつつも、青年に連れられてとあるホテルの客室へと入った。 かなりの金持ちにしか入れないその部屋の真ん中に転がっていたのは、案の定貴族の死体であった。 とりあえずは未だに寝ているホテルのオーナーを起こしすよう青年に言った後、二人の内一人が王宮と市内に点在している詰め所に伝令を飛ばした。 伝書鳩の形をしたガリア製のガーゴイルを用いたお陰ですぐに伝令が伝わり、すぐさま市内中の詰め所から多数の隊員達が集まってきた。 集まってきた隊員達は宿泊していた他の客達を起こして理由を軽く説明して避難させた後、現場の判断ですぐさま緊急の検問が張られることになった。 思ったより貴族達の避難が遅く、検問を張り終えた頃には既に朝の八時頃になっていた。 本来なら殺人事件でここまでの事はしないのだが、これには理由がふたつほどある。 ひとつ、王宮で重要なポストにいる者達が何人かこの宿に泊まっているということ。 ふたつめ。これが今回の事件をかなり大きくさせる要因となっていた。 ―――『殺された貴族が、機密性の高い書類を持っていた』ということ。 最初に現場へと来た隊員が偶然にも、機密性の高い書類の写し取りを見つけた事から被害者が内通者だとすぐに判明したのだ。 本来ならこの様な書類は写し取りはもちろん、持ち出す事すら禁止されているのである。 何時レコン・キスタとの戦争が始まってもおかしくない時期にそのような事をするなど、内通者でなければ命を捨てるという事と同義なのだ。 王宮では既に内通者が出ると前から予想していたのだが、最初に確認できた内通者は既に死んでしまっていたとは誰が予想できようか。 それが余計に緊急会議を長引かせ、朝になっても未だ王宮から魔法衛士隊が派遣されていないのだ。 「しかし隊長…今回の事件は、少し奇妙なところがありますね」 唐突なアニエスの言葉に隊長は頷き、振り返って床に転がっている死体の゛首筋゛の方へ視線を移す。 平均的な男性より少し細い首筋には…「虫に刺されたかのような人差し指程の大きさがある赤い斑点」がひとつあった。 ◆ これを見つけた当初は、寝ている最中かまたは殺された後に蚊にでもさされたのだと推測していた。 夏の訪れを感じるこの季節ならば、蚊にさされてもおかしくはないからである。 だが、スケッチ担当の隊員がこれを見た時、彼は驚いた表情を浮かべてこう言った。 「これが虫のさし傷だとすると…虫の形をした殺人鬼ですねぇ…」 苦笑交じりの言葉に、その場に居合わせた隊員達はまさかと思った。 だが驚くべき事に死体を調べてみると、首筋にある虫のさし傷しか目立った外傷が無かったのである。 そうなると、途端にスケッチ担当が言ったあの言葉に現実味が出てきた。 ◆ 「虫の形をした…殺人鬼ねぇ…」 衛士隊随一の物知りであるスケッチ担当の言った言葉を呟き、隊長は手に持っていた書類を鞄の中にもどした。 それを見てアニエスとミシェルも持っていた書類をもどし、最後にミシェルが鞄の蓋を閉じた。 「ミシェル。とりあえずコレはロビーの方に持っていってくれ」 「了解しました」 隊長の命令にミシェルは敬礼をし、左手で鞄の取っ手を掴むと軽く腕に力を入れて持ち上げた。 この鞄、何も入っていなくとも相当重量のあるタイプではあるが、彼女は何とも思わず軽々と片手で持っている。 普通の男性隊員達と同じ訓練をしている所為か、その小さな体には今や素晴らしいほどの力が宿っていたのだ。 「――ふぁ…」 ミシェルが鞄を持って部屋を出た後、ふとアニエスの口から小さな欠伸が出た。 堅苦しい彼女には似合わない可愛らしいそれに、隊長は思わず微笑む。 「おいおい、そんなに寝たいのならロビーのソファで休んでもいいんだぞ?」 隊長の口から思わず労りの言葉が出たが無理もない。 実はアニエスの睡眠時間は、ほんの一時間程度程度だけであった。 夜中まで窃盗犯を追いかけて捕まえた挙げ句、取り調べと調書で大分時間が掛かってしまい、 ようやく一通りの作業を終えてベッドに潜り込んで一時間後に招集を掛けられたのだ。 隊長の言葉に、アニエスは一瞬だけ顔を赤くした後口を開いた。 「あ…い、いえ!お気遣い感謝致しますが、自分は平気です」 「だけどなぁアニエス、お前に倒れられちゃあコッチも困るしなぁ…」 強気のアニエスに隊長は苦笑しつつもなんとか彼女をすぐにでも休ませようと思っていた。 ◆ 衛士隊に入隊してからの彼女は女性には少々辛い激務も幾度かこなしており、その身体には疲労が溜まっていた。 ミシェルは仕事がない合間にはいつも休んでいるのだが、それとは反対にアニエスは何かしらの仕事にいつも取り組んでいるのだ。 そんな彼女に隊長自身が一度長期休暇を取ってみたらどうだと言ったところ… 「私がしている数々の仕事は、自身を強くする為にしているのです」 彼女は強い信念の篭もった目でそう言った。 こういう目をした者には何を言っても聞かないというのは衛士隊の誰もが知っていた。 それに、彼女は非番の日にはちゃんと休んでいるのでそれ以上強く言うことも出来ないでいた。 ◆ 「自分は大丈夫です。それよりも隊長の方こそ昨日はあんまり寝てないはz――「 う わ っ … ! ? 」 隊長の言葉にアニエスは首を振って立ち上がろうとしたその時、すぐ後ろから驚きに満ちた声が聞こえてきた。 声の主は被害者のスケッチをしていた隊員で、いつの間にかすぐ傍にまで寄ってきていた。 一体何なのかとアニエスが思ってふと被害者の方に視線を移した時、すぐにある事に気が付く。 (被害者の肌が…白くなっている) そう、先程まで肌色だった被害者の肌がペンキで塗ったかのような白色に変わっていた。 死体は時間が経つことによって肌の色が変わるが、こんなに早く変色はしない。 では一体どうして、とアニエスが疑問に思った瞬間―――― …ュウ…シュゥ…シュウ…シュウ…シュウ… ふと被害者の身体の真下から、耳に障る嫌な音が聞こえてきた。 「この音は…一体何だ?…何かが溶ける音にも聞こえるが」 その音にすぐさま気が付いた隊長は怪訝に表情を浮かべながら、被害者の傍へと近寄った。 「よ…こらっ…しょっとぉ!!」 隊長は耳を音のする方向へ傾けた後、被害者の身体に手を掛けると、勢いよく前へと転がした。 突然の行動に二人は目を丸くし、スケッチをしていた隊員は思わず声を上げた。 「なっ…!た、隊長…いったい何を…!?」 しかし、その声を無視して隊長はひとり呟くと、死体の真下に転がっていたある物体を手に掴んだ。 「成る程…。音の正体はこれだったってワケか」 何かを手に持った事に気が付いたアニエスはすぐさま隊長の傍に駆け寄った。 隊長が手に持っていたそれは、白煙を上げて溶けている青いガラス片のようなものであった それは音をたてて゛内部から゛溶けていて、あと数十秒のすれば溶けて無くなってしまうであろう。 突如変色した内通者の死体…そしてこの溶けていく青いガラス片の物体。 今まで出会ってきた事件の中でも奇怪な事件だと、隊長は実感した。 「もしかするとこの事件…単なる殺人事件じゃあ無さそうだ」 ひとり呟く隊長の指先で、青いガラス片の物体は溶け続けていった。 前ページ次ページルイズと無重力巫女さん
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7557.html
前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第73話 反撃開始! 二人のウルトラマン 円盤生物 ノーバ 高次元捕食体 ボガール ウルトラマンジャスティス 登場! ヤプールの悪辣な罠にかかって、円盤生物ノーバと高次元捕食体ボガールの 挟み撃ちによって、絶体絶命の危機に陥ったウルトラマンA。 しかし、もはやこれまでかと思われたそのとき、ノーバの作り出した赤い雨の 黒雲を打ち破り、一閃の光がボガールを撃ってエースを救った。 そして、黒雲を消し去った光芒の中から姿を現した赤い巨人。それは、かつて 超獣サボテンダー、さらにレッサーボガールを倒した、この世界の宇宙を守る戦士。 「グ……キサマハ……」 ボガールは、以前自分の手下を全滅させ、自らにも手傷を負わせた仇敵の姿を 見て憎憎しげにつぶやいた。しかし、邪悪な者たちにとっては憎らしいものにしか 感じられないだろうが、心ある人間たちにとっては光と希望の象徴と見えた。 「あれはまさか、ティファニアの言っていた」 「もう一人の、ウルトラマン!」 輝きを取り戻した太陽の下を飛ぶシルフィードの上で、キュルケやロングビルの 驚愕と歓喜のまざった歓声が、空へと吸い込まれていく。 今こそ、全世界の命運をかけた戦いは新たなラウンドを迎えたのだ! 「デュワッ!」 エースの危機を救ったウルトラマンジャスティスは、右腕を前に突き出す ファイティングポーズをとって、思いもよらない敵の出現に動揺するノーバと ボガールを威圧する。 「ハァッ!」 構えを解き、ジャスティスは二匹の怪獣をめがけて走り出す。当然、二匹は 向かってくる敵を迎え撃とうとしたが、ジャスティスが地を蹴ったと二匹がその目で 認識した瞬間には、ジャスティスは一瞬にしてマッハ3.5の最高地上走行速度にまで 加速し、その姿はすでにボガールの正面にまで達していた。 「速い!」 距離にしたら1000メイルはあろうかという距離を、常人ならば瞬間移動した かのようにさえ思ったであろう速度で駆け抜けたジャスティスの俊足には、 『雪風』の異名をとるタバサでさえ驚嘆するしかなかったが、ジャスティスの 攻撃はさらに突風のように二匹に襲い掛かる。 「デヤァッ!」 ジャスティスのハイキックがボガールの顔面を打ち、無防備だった鼻っ柱に 強烈な一撃を食らったボガールはたまらずに、よろめきながらあおむけに 転ばされ、ついでノーバには左ストレートを打ち込んでひるませた後、 その頭をドッジボールの玉のように掴んで、ボガールに向かって投げつけた。 「ダァァッ!」 起き上がろうとしていたボガールにノーバが頭から突っ込んで、両者は 鞭やマントを絡ませてもんどりうった。 「すごい……」 新たなウルトラマンの力も、エースに勝るとも劣らないすさまじさに、 誰もが呆然として見とれた。 けれど、ジャスティスは絡み合ってなかなか起き上がれないでいる ボガールとノーバに追撃をかけようとはせずに、力を使い果たし、 ひざを突いてカラータイマーの点滅を消えかけさせているエースに 歩み寄ると、自らもエースのかたわらに片ひざをついて、無言で エースの右手をとると、エネルギーを光の粒子に変えてエースへと 送り込んでいった。 『ジャスティスアビリティ』 (これは……エネルギーが、回復している) 巨大化状態すら維持できなくなりかけていたエースのカラータイマーが 青に戻り、同化の影響で疲労感が溜まっていた才人とルイズも楽になってくる。 「あなたは?」 力を取り戻したエースは、無言で見守っているジャスティスに問いかけたが、 ジャスティスは立ち上がると、構えを取り直して冷静にエースに告げた。 「話は後だ」 「……!」 見ると、転ばされてもつれ合っていたボガールとノーバがようやく起き上がって、 再びこちらへと叫び声をあげてきている。二匹とも、まだまだ余力があると見え、 むしろ表情を持たないノーバさえ怒りに燃えているという風に鞭と鎌を高々と掲げて、 口からは凶暴化ガスを漏らしている。 だが、邪悪に対する怒りならばウルトラマンは負けない。 「デヤァッ!」 「デュワァッ!」 並んで同時に構えをとったエースとジャスティスは、真正面から二大怪獣を迎え撃つ。 「よっしゃあ、これで二対二よ。いっけぇー!」 キュルケの叫びがゴングとなったかのように、戦いの最終ラウンドの幕は切って落とされた! 「トォーッ!」 「ドァァッ!」 エースが空中に飛んでノーバを蹴りつけ、ジャスティスは捕食器官を全開にして 飛び掛ってくるボガールを受け止めると、圧倒的なパワーで地面に叩き付ける! 対して、まさかこの場にレッサーボガール戦以降、ずっと未確認の存在であった ウルトラマンジャスティスが乱入してくるとは計算していなかったヤプールは。 「うぬぬ……なにをしている! 二人まとめて早くやっつけてしまえぇー!」 と、焦って叫ぶが、それこそこれ以上策がないことをエースたちに露呈して しまうだけの結果となった。確かに、エース一人だけを対象にしたならば、 二十万人の人間を人質同然にしてエースに連戦を強いて消耗させて倒す ヤプールの作戦は完璧といえたが、他のウルトラマンの救援という事態までは それに盛り込まれておらず。ナックル星人やババルウ星人、ギロン人や リフレクト星人なども勝利寸前で大逆転を許している。唯一それを計算に入れて 勝利できたのはヒッポリト星人くらいだ。 二人のウルトラマンの攻撃を受けて、ダメージを受けた二匹はなおも 持ち前の凶暴性を発揮して逆襲に転じようとするが、それも無駄だった。 ボガールはエースに向かって波動弾を放つが、エースは体の前で腕を 回転させて作り上げたバリアで身を守る。 『サークルバリア』 全弾を跳ね返されて、腕を震わせて悔しがるボガールの隣から、ノーバは もう一度円盤形態になって、高速回転しながらジャスティスに体当たりを かまそうと突進するが。 「ヌゥンッ!!」 なんとジャスティスは突撃してきたノーバのマントのすそを真正面から がっちりと受け止めると、そのまま9万トンの握力を込めて回転を無理矢理に 止めて、たまらず円盤形態を解除したノーバを、まるでハンマー投げの ひも付き鉄球を振り回すように両腕ですそを掴んだままぶん回し、 さらにそのままパワーに任せて勢いよく地面に何度も頭を叩き付けた! もちろん、エースも受けてばかりではなく、さっきまでのお礼とばかりに 腕を胸の前でクロスさせ、左右に勢いよく開くと同時にカラータイマーから 虹色の光線を発射した! 『タイマーショット!』 かつて超獣スフィンクスを粉々に粉砕した必殺光線が炸裂し、ボガールは 吹き飛びこそしなかったものの、大爆発によろめいて、体の前半分を 黒焦げにしてひざをついた。 もはや、形勢は完全に逆転し、シルフィードから見守る面々の顔も 一様に明るく強くほころんでいる。 「やったやったやったぁー! 見たか悪党どもー! あっはっはっはっ!」 「キュルケ……テンション上がりすぎ……」 「隊長、勝てます、勝てますよこれは!」 「ああ、もう大丈夫だ。よぅし、そのまま逃がさぬように一気にたたみかけろ」 「な、なんだか展開についていけなくなってるんですけど……とりあえず がんばれー!」 「きゅーい!」 そうだ、ジャスティスと、完全回復したエースがタッグを組んだ以上、 ボガールとノーバといえどももはや敵ではない。 ジャスティスは連続して叩き付けた末にぼろきれのようになったノーバを ボガールに向かって投げつけると、エースのそばへとジャンプして 降り立ち、エースと目を合わせてうなずきあって、ボロボロになった 二匹へ向かって、同時にとどめの一撃の体勢に入った。 「ヌゥゥゥ……」 両腕を上げたジャスティスの眼前にエネルギーが集中し、エースは 体を大きく左にひねる。もうボガールとノーバには回避するだけの 余裕はない。 とどめだ! ノーバは鞭と鎌をだらりと垂れ下がらせ、ボガールに向かって寄りかかるように 倒れこんでいる。そこへ、二人はありったけの力を込めた一撃を放った! 『ビクトリューム光線!!』 『メタリウム光線!!』 金色の光と三原色の美しい輝きが重なり合い、光の奔流となって二匹の 怪獣へと突進し、一瞬のうちに光芒の中へと飲み込みさると、大爆発を 引き起こして消し去った! 「やった……勝ったぁ!」 黒煙が吹き上げて、火の粉が空中ですすに変わりながら消えていく中に、 二匹の姿はどこにもなく、見守っていた者たちの中から歓声があがった。 さらに、見るとノーバのガスにやられていた人々も、その効力が切れたらしく、 凶暴化していた人々は糸が切れたように倒れこんでいる。過去の例から見て、 おそらくは無事であるだろう。 エースとジャスティスは、少なくともこの場でのヤプールの計画は完全に 崩壊したことを確認すると、互いに目を合わせて、わずかにテレパシーで 語り合った。 (あなたは……?) (ジャスティス……) (あなたも、ウルトラマンなのか?) (そうだ、お前こそ何者だ? この星に逃げ込んだスコーピスの一体を倒したのもお前だな) (スコーピス、あの砂漠化を進めていた宇宙怪獣か。私の名はウルトラマンA…… 何者かと問われれば、話は長くなるが) (いいだろう、私もお前には聞きたいことがある) 両者はそれぞれ話したいことが山ほどあったが、このままウルトラマンの姿のままで ここに居続けると、それだけでエネルギーを消費してしまうので、同時に空を見上げて 飛び立った。 「ショワッ!」 「ショワッチ!」 二人のウルトラマンは、悲劇的な茶番劇の舞台となった戦場から、シルフィードの背に乗る、 たった五人の目撃者となった少女たちに見送られて、はるかな上空へと飛び去っていった。 そして数分後、エースとジャスティスの姿は、アルビオン上空高度一五〇〇キロの 衛星軌道上にあって、ハルケギニアを見下ろしていた。 (アルビオンが、あんなに小さい) ルイズが、高高度からパンケーキのように小さく見えるアルビオンを眺めてつぶやいた。 彼女にとって、宇宙からこの星を眺めるのは二度目になるが、やはり宇宙からの 眺めというものは、地球は青かったと言ったガガーリンのようにちっぽけな人間を 圧倒するものがある。 が、今はこの青い星の上に立つようにして眼前に浮いている赤い巨人と会話 するほうが重要である。 「ここでなら、気兼ねなく話せるだろう」 ジャスティスは、自分には地球型の惑星内での時間制限は特にないが、 エースはハルケギニアのような星で活動するときはエネルギーを大量に 消耗するであろうことを、今の戦いから見抜いて、その問題のなくなる場所まで 彼をいざなったのだ。 エースも、星の影響圏を突破して、変身の時間制限がなくなったことで、 話をするだけの時間が充分にとれたことを、自分の体の状態を確認してうなずき、 ジャスティスに向かって静かに答えた。 「ああ……ジャスティス……いや、先に助けてくれたことを感謝する」 エースは、ジャスティスに向かって一礼した。通じるかはわからないが、 ウルトラマンとしてより、北斗星司としての人格が彼にそうさせた。 ルイズと才人は、二人のウルトラマンの会話を、じっと息を呑んで見守る。 「礼を言う必要はない。私は、奴を追ってきただけだ」 「奴……ボガールのことか? なぜ、奴を追っているのだ」 「ボガール……それが、奴の名か? 奴は危険だ、放っておけば、奴は この惑星の生態系に甚大な被害を与えるばかりか、やがては全宇宙規模で 同じことを繰り返すだろう」 そのジャスティスの洞察は、ボガールの習性を完全に的中させていた。 ボガールはいわばイナゴの大発生にも似た生物災害で、しかも数段悪質で 規模が極めて大きい。 それは、かつてジャスティス自身が戦った異形生命体サンドロスとも つながる、己の繁栄だけを欲する、宇宙の調和を乱すものであったために 数ヶ月前から追っていることを、ジャスティスはエースに告げて、今度は エースにお前はどこから来て、この星で何者が暗躍しているのかを尋ねた。 「私は、この宇宙とは別の次元にある宇宙の、M78星雲の宇宙警備隊に 所属しているウルトラマンの一人だ」 エースは、難しいことだと思いながらも、ジャスティスに一つずつ事情を 説明し始めた。 自分は、この世界とは異なる宇宙から、ルイズの召喚魔法で呼ばれたこと、 ヤプールと名乗る異次元空間に潜む悪意の塊のような侵略者がいることと、 その配下の超獣や宇宙人たちなど、ジャスティスはそれらをじっと聞いていたが、 やがてなるほどというふうにうなずいた。 「そうか、この星で起きている異変は、ただの別惑星からの干渉にしては 妙だと思っていたが、別次元からの攻撃だったとはな」 「信用するのか?」 「異次元、平行宇宙からの侵略はありえないことではない」 軽く言ってのけたジャスティスの言うとおり、こちらの世界でもジャスティスが 関わったものではなくとも、異次元人が他の惑星の侵略を企てた例はある。 「それに、悪いがさっきの戦いは離れた場所から見させてもらっていた。 お前が本当にウルトラマンなのか、確かめたくてな」 「どういうことだ?」 「お前の世界には、ウルトラマンは大勢いるようだが、この世界には私を 含めてもウルトラマンは二人しかいない」 「二人!? 君以外にも、この世界にはウルトラマンがいるのか?」 エースや才人は、ウルトラマンが二人しかいないというジャスティスの言葉に、 やはりここは別の宇宙なのだということを実感したが、同時にこの世界にも ウルトラマンはいるのだと知って喜びを覚えた。けれど、ジャスティスは 宇宙のかなたを望んでつぶやいた。 「だが、今はどこの宇宙を飛んでいるのか、私にも見当はつかん」 そう言われて、エースと才人は落胆したが、ジャスティスがこの星に やってきたのも、スコーピスがたまたまこちらにやってきたのを追撃 してきたからであり、広い宇宙での偶然の確率を考えると、ジャスティス だけでもいてくれたことは非常な幸運だったのだ。 けれどそこで、経過を見守っていたルイズが、エースのテレパシーを 借りてジャスティスに話しかけた。 (だけど、ずっと見ていたのなら、なんでアルビオン軍が衝突しようと しているのを黙っていたのよ) 「この星の人間か……悪いが、そちらの世界ではともかく、我々ウルトラマンは 宇宙全体の調和と秩序を守ることを使命としている。異種生命体の侵略攻撃 ならばまだしも、同族同士のなわばり争いに干渉する責任はない」 (な、国と国の戦争を、動物の争いみたいに言わないでよ!) 「宇宙全体の視点から見れば、大差はない」 (……っ!) ジャスティスの切り捨てるような言い方に、ルイズは激発しかけたが、 そこは才人がおさえた。 (ハルケギニアの人間の責任で起きた戦争を、ウルトラマンに解決して もらおうなんて、虫が良すぎるんじゃないのか?) ウルトラマンは個人としての人間一人一人を愛し、種族としての人類を 守護しようとはするが、その活動単位である国には、なんらの干渉もしないのは、 光の国のウルトラマンたちも一貫している。それは、全宇宙の平和を守るという 大儀のもとに絶対中立を必要とするためで、あくまで一方的な侵略行為は 阻止するが、たとえばミステラー星とアテリア星や、ドロボン星の戦争などの 同格の星間戦争には一切の干渉をおこなっていない。 どうであれ、ハルケギニアの人間が起こした問題は、どれだけ痛みを ともなおうが、その人間たちで解決せねばならない。厳しいようだが、 それが責任というもので、責任を守れないような種族は宇宙のどこへ 行っても信用されないだろう。 もちろん、エースもそれは重々承知しており、怪獣、宇宙人の出現が なければ、仮にハルケギニア全土が戦火に包まれようとも変身を許すことはない。 「二人とも、過ぎた力を行使する者は、無力な者と同様に争いの火種となる ことを覚えておいてくれ。それでジャスティス、私はまだこの宇宙がどういう ところなのか、この星以外ではほとんど知らないのだ」 エースに問われて、ジャスティスはテレパシーでこの宇宙の概要をエースに 伝えた。それによると、この星……仮にハルケギニア星と呼ぶ星は、エースのいた 宇宙で地球のあった銀河系とほぼ同じ形をした渦状銀河の、地球のある オリオン腕と呼ばれる場所から銀河系中心部をはさんで反対側にあり、 ほかにもマゼラン星雲、アンドロメダ星雲などもほぼ同じものが存在し、 もちろんその中にある惑星や種族はほとんど別種の進化をたどった、聞いたことも ないものばかりだが、宇宙地図的にはそっくりであって、ここが並行宇宙で あることをあらためて納得した。 だが、その中でも驚いたのは、この宇宙にも地球と呼ばれる星があった ことであった。 「まさか……そこまで同じとは」 もちろん、似てはいるけど並行世界の別物であるからGUYSもないし、 日本はあるけど、様相はかなり異種であるらしいから、名前だけは同じの まったく違う星で、しかもハルケギニア星とは八万光年は離れているから 影響も皆無だが、才人はもしかしたらその地球にも同じ平賀才人という 人間がいて、別の人生を送っているかもしれないと、複雑な思いを抱いた。 「むぅ……ありがとう、だいたいはわかった。それでジャスティス、君は これからどうするのだ? 私は、彼らといっしょにヤプールの侵略を阻止に向かうが」 「私は、ボガールを追う。ヤプールとやらも、宇宙の調和を乱す存在である以上、 私の敵ではあるが、奴の貪欲さはそれにも増して危険だ」 (ちょ、ちょっと待て、ボガールはさっき倒したんじゃなかったのか!?) 才人が慌てて、さっきの戦いで爆炎の中にノーバとともに消えたボガールが 生きているのかと問いただすと、ジャスティスは不愉快そうに答えた。 「人間の視力では捉えられなかったのも無理はないが、奴は我々の攻撃が 命中する直前に離脱に成功している。見てみろ」 すると、エースとジャスティスの間の空間に、ホログラフで今の戦いの 再現映像が映し出され、スローで再生される中で、瀕死のボガールが メタリウム光線とビクトリューム光線の直撃寸前に、捕食器官でノーバを 飲み込んですぐに背中から皮を残して脱皮し、異次元に逃走する様子が 再現された。この間、わずか0.1秒以下。 (くそっ、なんてしぶとい奴なんだ!) 才人がじだんだを踏みそうな勢いで吐き捨てた。あのとき爆発したのは、 ボガールの残した抜け殻に過ぎなかったというわけだ。なんという逃げ足の速さ、 さらに脱皮したということは、ボガール自身もパワーアップしているに違いない。 ホログラフを消すと、ジャスティスはボガールがここ数ヶ月のあいだに、 アルビオンに現住するものから宇宙怪獣までもあちこちで捕食していた ことを告げると、最後に言った。 「ただし、脱皮したとはいっても奴がパワーアップした自分自身に慣れる までには時間があるだろうし、かっこうの餌場であるこの星を簡単に 離れるとも思えないが、奴は今でもヤプールの命令に服従してはいない 様子であったから、いずれこの星を離れて別の星を荒らしにまわるだろう。 そうなってしまえば、再び補足するのは困難だ」 ジャスティスは、ボガールが第二のサンドロスとなる可能性を考え、 まだ不完全なうちにこの星で殲滅しようと決意していた。 エースは、ジャスティスが行動を別にすると言ったことに、少々の残念を 覚えたが、ボガールも宇宙全体にとって脅威となる生命体であることには 変わりなく、ヤプールと戦っているうちにボガールに漁夫の利を占められる ことは避けたかったので、そのままうなずいた。 「わかった。ボガールは怪獣を食うたびにパワーを上げていく。注意してくれ」 「言われるまでもない。そういえば、アルビオンという国を旅しているうちに 聞いたことだが、レコン・キスタとやらは首都防衛のためと称して、大量の 空軍戦力を首都近辺に温存しているそうだ」 「空軍戦力? しかし、そんなものがあるならなぜ今の戦いに投入しなかったのだ?」 アルビオンを含めてハルケギニアの空軍戦力は幻獣を除けば、飛行する 帆船による空中艦隊で、それで頭を抑えられれば陸上兵力はひとたまりも ないはずであり、クロムウェルがヤプールの傀儡としても、その他の軍人が 納得するとは思えなかった。 「風石の採掘場が王党派陣営に抑えられ、長くは飛べないからと理由付け られてはいたが本当のところは知らん。だが、ヤプールが人間を利用する 作戦を好んでいる以上、何らかの関係はあると思うがな」 「なるほど、ありがとう」 あのヤプールが一度作戦を失敗させたからといって、おいそれとあきらめる とは思えない。だが、次になにかを起こすであろう場所が特定できるのなら、 対策も打ちやすい。 (これで、目的地は決まったな) (アルビオン首都、ロンディニウム……) そこでの計画さえつぶせば、さしものヤプールとて打つ手は残していないだろう。 まだ未知の怪獣、超獣、宇宙人が待ち構えているのに違いないが、アルビオンが 平和を取り戻せば、ヤプールの力の源であるマイナスエネルギーも減少する。 「では、私は行くぞ。ボガールに、これ以上時間を与えるわけにはいかん」 ジャスティスは振り返り、眼下に見下ろすアルビオンへと戻ろうとしたが、 その前にエースが引きとめた。 「ジャスティス……また共に、戦ってくれるか?」 「……我々は、ウルトラマンだからな」 そう言い残すと、ジャスティスはまだアルビオンのどこかで怪獣を狙っている であろうボガールを仕留めるために飛び立ち、エースもまた才人とルイズの 仲間たちの待つ元へと飛んでいった。 戦いが終わった後、赤い雨が上がって静けさを取り戻した草原は、戦いに 参加していたキュルケたち以外は貴族から平民まで総勢二十万人が洗脳が 解けた後遺症で、死屍累々と気絶した姿をさらす壮絶な風景となっていた。 そんな無残な光景を、キュルケたちはシルフィードを少し離れた場所に 着陸させて、濡れた服をはたきながら眺めていたが、やがてロングビルが 憮然としたようにつぶやいた。 「とてもほんの一時間前に、精悍な姿を見せていた軍隊とは思えませんわね」 眼鏡をくいと右手で持ち上げながら言う彼女の言葉の内には、何年か前まで 自分と自分の一族が誇りを持って仕えていた国家が、その当時想像もできなかった 惨めな姿を目の前にさらしていることへの、悲哀がにじみ出ていた。 つわものどもが夢の後、地球の古い歌人が残した一文だが、どんなに 権勢をふるって栄えようとも、後世の歴史から見れば一時の夢に過ぎない。 しかも、これはなにもアルビオンに限ったことではなく、条件が揃っていれば ヤプールがターゲットにしたのはトリステインやゲルマニアなど、アニエスや キュルケたちの故郷であったかもしれず、他人事とは思えないキュルケは、 目の前の人々をゲルマニアの人々に重ねてため息をついた。 「人間も国も、滅ぶときはあっという間なのね」 「いや、悪いがまだ滅びてもらっては困る」 アニエスが、キュルケの言葉をさえぎって発した言葉に、一同は注目した。 彼女によると、このままではヤプールに勝てるうんぬん以前にアルビオンが 無政府状態になるのは避けがたく、そうなればトリステインなどの他国が 調停に乗り出すことになるが、権益などをめぐって争いが起こることは 当たり前で、やっと各国につながり始めた対怪獣防衛網が瓦解してしまう ことになりかねず、レコン・キスタは論外であるから、ここはなんとしてでも 王党派にアルビオンを再掌握してもらわねばならないのだと。 が、そのことは皆にもわかったが、実際王党派はこのありさまで、 目を覚ましたとしても、中核となるウェールズが洗脳が解けたとはいっても 操られていたときのようなカリスマ性は望みえるまい。 「まるで、死人の目を覚まさせるような難題ですわね」 「だが、やってもらわねばハルケギニア中がこの騒動のとばっちりを 受けてしまうことになる。まったく、気が重いわ……」 大きく息を吐き出して、アニエスはアンリエッタ王女から受けた使命に よって、ウェールズを助けなければならないことに、どうしてこう頼みも しない面倒な仕事ばかりが舞い込んでくるのかと、憂鬱になりかけたが、 そこへシルフィードの上からミシェルが顔を出した。 「私がいますよ、隊長」 「ふっ、そうだったな。頼りにしているぞ」 笑顔のはげましに、笑顔で応えたアニエスは、ミシェルの気遣いに 感謝した。これからやるべきことは多く、今は無理でもミシェルや 銃士隊全員の助力を必要とするときはすぐに来るだろう。 だが、それらのことも、まだヤプールがレコン・キスタを掌握している以上、 近いうちにまた何かを仕掛けてくるはずで、それを撃破できなければ すべて絵に描いたもちに等しい。 アニエスはそこまで考えて、これからの行動の優先順位を決めようと したときに、やっと待っていた二人組の声が聞こえてきた。 「おーい、おーい」 「待ってーっ、まだ行かないでーっ」 「……遅いぞ! さっさと来い」 ぜいぜいと息を切らしながら才人とルイズがアニエスの怒鳴り声に 迎えられながら走ってくるのを見て、ミシェルが勝ち誇ったように、 「な、無事だったろ」と言ったのには、キュルケやロングビル、ついでに タバサも、「ああ、やっぱりね」と、そのしぶとさに正直な感服さえ覚えていた。 「今回は、ずいぶん遅かったな」 「すみません、無事だった人を見つけたので、少し話を聞いていたので」 才人は、ジャスティスから聞いた情報をうまく脚色して皆に説明した。 皆は、この決戦を利用した作戦が失敗した後でも、レコン・キスタに かなりの戦力が残されているのに不安な様子だったが、とりあえず それは首都防衛のための固定戦力であろうので、ここにすぐ攻め込んで くることはないだろうが、たかが帆走戦艦の十隻や二十隻、ヤプールが その気になれば風石などなくても動かすことは簡単だ。 アニエスは、それらの情報を総合して、今できる最善の方策を考えて披露した。 「とにかく、その残存した艦隊戦力が問題だな。それさえつぶしてしまえば、 後は首都に残った兵力がせいぜい一万、その程度の数なら今回と 同じ作戦は使えないだろう。残るは、有象無象の反乱貴族のみだ」 「ということは、首都に乗り込んで、アルビオン艦隊をつぶしてしまえば、 もうヤプールにレコン・キスタを操る価値はなくなるってわけか」 「もしくは、ヤプールの傀儡となったクロムウェルを倒せば、あとは 勝ち馬に乗ろうとして集まった雑魚ばかりだから、レコン・キスタは 自壊するだろう。だが問題は、どちらも厳重に警護されている上に、 トリステインからの増援を待つ時間はないから、我々だけで片を つけなければならんということだ」 艦隊か、クロムウェルか、どちらかを倒せばヤプールの影をこの大陸から 一掃できる。けれど、人数は少なく難易度は高い。 けれど、皆が迷う中でルイズの決断は早かった。 「クロムウェルを倒しましょう。あいつを倒すか、ヤプールの傀儡であったことを 暴露すれば、レコン・キスタそのものが消滅するわ」 「だが、艦隊を残しておけば、それをヤプールが別に利用しようと考える かもしれないぞ」 「その危険性があるのは、トリステインやガリアの艦隊も同じことでしょう。 それに、艦隊をつぶすなら焼き払うしかないけど、そうしたら多くの犠牲者が 出てしまうわ」 確かに、言われてみればそのとおりで、人的被害を見てみれば、 クロムウェル一人を倒せばすむのに対して、艦隊は乗組員を巻き込んでしまう。 ルイズの口から人命尊重の言葉が出たことは少々驚きだが、彼女もより 広い目で見渡す目が、少しずつ養われていると思うと才人は誇らしくもなった。 「ようし、じゃあこれからロンディニウムに乗り込んで、クロムウェルとかいう おっさんをぶっ飛ばすか」 これで今後の方針は決まった。 やることが決まれば、思考回路が明確にできている才人などは切り替えが 早かった。相手が人間ならともかく、超獣か宇宙人が化けているのだと したら容赦する必要はない。 けれど、意気の上がる彼らの意表をつくような言葉がアニエスから発せられた。 「残念だが、私はここに残る」 「え? なんで」 「もうじき、ここの人間たちが目を覚ましたらパニックが起こる。そうさせないためにも、 ウェールズにはさっさと目を覚ましてもらって、向こうで倒れているレコン・キスタの兵も まとめて全軍を撤退させなくてはならんからな」 「確かに、ですができるんですかそんなこと」 「張り倒してでも目を覚ましてやってもらうさ、それに私にはトリステイン特使 としての立場と、アンリエッタ王女直筆の書簡がある。ウェールズ皇太子と 姫様は昔から親友だったと聞くから、あとはまあなんとかやってみるさ」 まぁ、アニエスさんの強引さにかかったら、大抵のごり押しは通るだろうなと、 口に出しはしなかったが、才人はなんとかうまくいくのではないかと思った。 もっとも、鬼より怖いアニエスに、ウェールズが女性にトラウマを持たねば よいのであるが、とても軟弱なとりまきの貴族どもには止められはするまい。 ともあれ、時間がないのでアニエスは他にやるべきことを順次説明していった。 「ミス・ロングビルは、すまないがいったんトリステインに戻って、ここであった ことを王女殿下に報告してもらいたい」 「それは、別に構いませんが、ここから王城までは二日はかかりますわよ」 「それは大丈夫だ。今頃トリステイン軍は、ラ・ロシュール近辺に前線を 敷いているだろうから、姫様もそこにいるはずだ。それに、今はアルビオンが トリステインに再接近する時期、急げば一夜で着けるだろう」 「わかりました。その代わりといってはなんですが、わたくしの故郷が これ以上荒れないように、しっかり頼みますわね」 「心得た」 アニエスは強くうなずくと、手持ちの紙に即席で紹介状と、種種の 報告内容を書いてロングビルに手渡した。ロングビルとしては、本当は すぐにティファニアのところに戻って無事を確かめたかったのだが、 事態がアルビオンはおろかハルケギニア全体の命運にかかってくると なると有無を言ってはいられなかった。 そして、アニエスは最期に、才人、ルイズ、キュルケ、タバサ、ミシェルを 見渡して頭を下げた。 「すまん、お前たちには一番危険な仕事をしてもらわねばならん」 そう、残ったこの五人のみが、今ロンディニウムへ向かって、ヤプールの 陰謀を砕くことができる唯一の希望であった。だが、そのために、軍人 でもない少年少女たちを敵の本拠地に乗り込めと言うのは、死ねと 言っているにも等しいので、ほかに選択肢がないとはいえ、良心に 痛みを覚えずにはいられなかった。 けれど、彼らには迷いは最初からなかった。 「別に、最初からそのつもりでしたから問題ないですよ」 「そうよ、それに最初に喧嘩を売ってきたのは向こうなんだから、買って やらなきゃヴァリエールの名が廃るわ」 才人とルイズに続いて、今度はキュルケとタバサも。 「ま、ここで食い止めなきゃ、ゲルマニアのあたしの故郷も戦火に 巻き込まれちゃうし、第一、ヴァリエールに背を向けるなんて、ご先祖に 顔向けできないわ」 「付き合いだし」 二人とも、乗りかかった船から下りる気はないようであった。 最後に、ミシェルに目を向けたアニエスは静かに問いかけた。 「お前はどうする?」 「私は、サイトが行くのならどこへでも」 「本陣では、お前はすでに裏切り者として手配されているはずだ。 生きて帰れないかもしれんぞ」 「私がいなければ、レコン・キスタ内部のことはどうにもならないでしょう? それに、私はもう死にはしません」 「わかった。サイト、ミシェルを頼んだぞ」 「はい!」 強く返事をした才人に満足したアニエスは、ミシェルの同行を許可した。 本来なら、まだ立つことすらままならないミシェルが同行するのは危険 極まりないが、なんとなく才人たちならば立派に守り抜いてくれると 思えていた。 ちなみに、レコン・キスタ本陣でミシェルが裏切ると思っている者は この中にいない。それが、信頼というものであった。 そして、善は急げとばかりに、各々はすぐに行動に移すことになった。 「では、武運を祈る」 「無茶はしないでね、生徒の戦死報告なんてつまらない事務を、私の 仕事に入れないでほしいからね」 アニエスとロングビルを見送り、シルフィードは五人を乗せて、 アルビオンの首都ロンディニウムへ向けて飛び立った。 アルビオンから発した波紋は、たちまちのうちにハルケギニア全体を 飲み込み、加速度を増して歴史の津波の下に乗り遅れた者を 押し流そうとしている。平和か、大乱か、いずれになるにしても、 この数日中に決着がつくであろうことは間違いなかった。 だが、大半の兵力を失ったとはいえ、反乱軍という看板を背負う レコン・キスタの貴族たちには降伏という選択肢はありえず、 文字通り死に物狂いになって最後の抵抗を試みるであろうし、 そんな余裕をなくした彼らを、ヤプールは嬉々として捨て駒に使うだろう。 もちろん、兵力に劣るレコン・キスタがどうしたところで勝利者と なることはないであろうが、混乱と戦火の種を残すことはできる。 ジャスティスとある程度似た意味で、異次元人であるヤプールに とって人間の国家などというものはどうでもいいものだった。 その証拠に、ヤプールは今回、戦争を利用してハルケギニア壊滅を 画策したわけだが、これまでに、人間を操れば簡単であろうのに、戦争を 作り出そうとしたことは地球の頃から一度もない。それは、ヤプールを 含む大多数の宇宙人にとって、一つの星は一つの星人が所有しているのが 当たり前なのに、別の種族ならばともかく、同種族のあいだで星の中に 狭い枠組みを無数に作って争いをするなどとは、到底理解できない 狭隘な思考だからだ。 奴の目的は、今も昔も全ての人間を絶望に染めた上で滅ぼすこと、 アルビオンは、たまたまその目的のための道具として適当だったので 選ばれたにすぎない。 ヤプールは、どんな心の隙にも忍び込み、どんなものでも利用する。 それに対抗するには強い心を持つしかないが、これまでハルケギニアの 外からの攻撃にさらされたことの無い、この世界の人々にとって、 外惑星からの悪意に満ちた攻撃に対抗するには、あまりにも経験が不足していた。 しかし、心あるものがいる限り、運命はその方向をどうとでも変える。 アルビオンで才人たちと別れたロングビルは、スカボロー港まで王党派から 拝借した上等な馬をぶっとおしで走らせ、アニエスからもらった資金で竜を 借り切ってラ・ロシュールまで直行し、半日でトリステインに戻ることに成功した。 この時期、トリステイン軍はアニエスの言ったとおりに、トリステインに最接近する アルビオン大陸を眼前に見る、港町ラ・ロシュール近郊の、タルブ村郊外に再建なった その主力を結集させつつあった。 現在の総兵力は、一万五千と最盛期にはおよばないものの、港には空軍も艦隊の 出動準備を整えて、陣頭指揮をとるべくやってきたアンリエッタ王女の命令を待っている。 その本陣へ、夜明けとともにラ・ロシュールから魔法学院の教師で、銃士隊隊長 アニエスの使いと名乗る女性が駆け込んできたとき、アンリエッタはわずか三分で 身なりを整えて、仮司令部のテントにやってきた。 「ロングビルさん、でしたわね。オスマン学院長の秘書さんの」 「はい、学院では殿下にお目にかかっております。ご記憶いただけて光栄ですが、 ことは急を要しますので、ご無礼をお許しください」 ロングビルはアンリエッタに対して、礼節を正しく守って拝礼した。彼女にとって、 元々こういう作法は貴族であったころに教え込まれて慣れたものだったので、 その気品漂う姿はアンリエッタの心象をよくした。 だが、ロングビルの口から、昨日アルビオンで起こった決戦の始終が余す ことなく伝え聞かされると、白磁のような姫の肌から、さらに血の気が引いて 死滅した珊瑚のようになっていった。 「王党派が……壊滅……ウェールズさまも、意識不明」 よろめいて椅子に崩れ落ちたアンリエッタを責めるのは酷であろう。ワルドによる 暗殺の計画を阻止するためにアニエスを向かわせたとはいえ、これまで王党派が 有利とばかり聞かされていたのに、それが一夜にしてひっくり返されたのだから ショックを受けるなというほうが無理である。 それでも、アンリエッタはウェールズの命には別状がないことと、アニエスが 彼の元へ向かって王党派の瓦解を防いでくれているであろうことを聞かされると、 大きく深呼吸をして気を落ち着かせ、猛々しくも音楽性を感じさせる声で、 軍政の腹心であるマザリーニを呼びつけて、あいさつもそこそこに命令を下した。 「すぐに可能な限りの兵力をアルビオンに上げる準備をしなさい。出立は 六時間後、正午をもって艦隊を出港させます!」 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
https://w.atwiki.jp/takumas72/pages/27.html
マイリスト 作品解説 制作者:伝令兵P(ユーザーページ) 参考 伝令兵P(ニコニコ大百科) アイドルたちの飛竜戦記(ニコニコ大百科) GM 音無小鳥 PC(PL) リュシー・フォートリエ(四条貴音) 人間/女性/17歳/冒険者生まれ コレット・バルバートル(水瀬伊織) ドワーフ/女性/15歳/神官生まれ エルヴェ・アルヴァレス(秋月涼) 人間/男性/18歳/冒険者生まれ アニエス・エルランジェ(天海春香) ナイトメア/女性/28歳/魔術師生まれ